1.はじめに
企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、2025年10月16日に以下の企業会計基準及び企業会計基準適用指針を公表しました。
- 企業会計基準第37号「期中財務諸表に関する会計基準」(以下、「期中会計基準」)
- 企業会計基準適用指針第34号「期中財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、「期中適用指針」。また、期中会計基準と期中適用指針を合わせて「期中会計基準等」)
- 企業会計基準第38号「『中間連結財務諸表等の作成基準』の一部改正」(以下、「中間作成基準等の一部改正」)
- 企業会計基準第39号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正(その3)」
- 企業会計基準第40号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(その2)」
- 改正企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」
また、実務において参考となるように、実務対応報告及び移管指針において定めている期中財務諸表における会計処理及び開示に関する定めの内容を提供することを目的として、補足文書「実務対応報告及び移管指針において定めている期中の取扱い」が公表されています。
期中会計基準等の公表の経緯
2023年改正金融商品取引法により四半期開示が見直され、上場企業について金融商品取引法上の四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」すること及び開示義務が残る第2四半期報告書を半期報告書として提出することとされ、ASBJは2024年3月に企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、合わせて「中間会計基準等」)を公表しました。
これにより、改正後の金融商品取引法において、上場会社では、金融商品取引法に基づく第一種中間連結財務諸表及び第一種中間財務諸表(以下、「第一種中間財務諸表等」)は中間会計基準等に基づいて作成され、金融商品取引所の定める規則に基づく第1四半期及び第3四半期の四半期財務諸表は企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、合わせて「四半期会計基準等」)に基づいて作成されることとなりました。
これに対して、上場会社及び財務諸表利用者から、中間決算と四半期決算は同じ会計基準等に基づいて行うべきであるとの意見が聞かれていたことから、改正後の金融商品取引法に基づく第一種中間財務諸表等と金融商品取引所の定める規則に基づく第1四半期及び第3四半期の四半期財務諸表の両方に適用可能となるように、中間会計基準等と四半期会計基準等を統合した会計基準等として、期中会計基準等が開発されました。
期中会計基準等の適用に伴い、以下の企業会計基準及び企業会計基準適用指針の適用を終了します。
- 企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」
- 企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」
- 企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」
- 企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」
2.改正の概要
期中会計基準等の適用範囲
期中会計基準等は、年度より短い期間の企業集団又は企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況について報告するために「期中財務諸表」を作成する場合に適用されます。
なお、2023年改正金融商品取引法に基づき特定事業会社などが作成する第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表(以下、合わせて「第二種中間財務諸表等」)については、「中間連結財務諸表作成基準」、「中間連結財務諸表作成基準注解」、「中間財務諸表作成基準」及び「中間財務諸表作成基準注解」並びに企業会計基準第38号「『中間連結財務諸表等の作成基準』の一部改正」(以下、合わせて「中間作成基準等」)を適用するとされており、期中会計基準等の適用対象となる「期中財務諸表」には含まれていません。
期中会計基準等の検討の前提
期中会計基準等は、改正後の金融商品取引法に基づく第一種中間財務諸表等と、金融商品取引所の定める規則に基づく第1四半期及び第3四半期の四半期財務諸表の両方に適用可能となるように、企業会計基準第33号等と企業会計基準第12号等を統合することを目的としているため、次のことを前提としています。
- 改正後の金融商品取引法に基づく半期報告書制度に適用できるように、期首から6か月間を1つの会計期間(中間会計期間)として作成する第一種中間財務諸表等に適用可能な会計処理を定めることを原則とする。
- 企業会計基準適用指針第32号の経過措置は、金融商品取引法等の一部改正法の成立日から施行日までの期間が短期間であることを理由に定めていたが、短期的な取扱いであるため経過措置としてそのまま残すことは困難であることから、個別に検討が必要であると考えられる。
期中会計基準等の開発にあたっての基本的な方針
期中会計基準等は、個別に検討を行った次のものを除き、基本的に企業会計基準第33号等(中間会計基準等)と企業会計基準第12号等(四半期会計基準等)の定め及び考え方を引き継ぐこととしています。
また章立ての整理として、第一種中間財務諸表等及び四半期財務諸表に「共通の取扱い」と「四半期財務諸表のみに適用される取扱い」を区分して整理されています。
企業の報告頻度に左右されないとする原則
金融商品取引法改正後の上場会社(上場特定事業会社を除く)においては、期首から6か月間を1つの会計期間(中間会計期間)とする第一種中間財務諸表等を作成した場合と、四半期会計基準等に従い第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる可能性がありますが、同じ企業が作成する期中財務諸表であるにもかかわらず金融商品取引法と金融商品取引所の定める規則のいずれに基づくかにより会計処理に不整合が生じることは適切ではないと考えられます。
このため、期中会計基準等では、金融商品取引法に基づく第一種中間財務諸表等と金融商品取引所の定める規則に基づく四半期に係る財務情報の会計処理が同一の結果となるように、企業の報告の頻度(年次、半期、又は四半期)によって、年次の経営成績の測定が左右されてはならないとする原則を採用しています。
この原則を採用した場合に会計処理に影響が生じる可能性のある項目は、企業会計基準適用指針第32号において経過措置として定められた次の項目であり、個別に検討を行った上でそれぞれの取扱いが定められました。
(ア)有価証券の減損処理係る切放し法
(イ)棚卸資産の簿価切下げに係る切放し法
期中会計期間末に計上した有価証券の減損処理に基づく評価損の戻入れ及び期中会計期間末における棚卸資産の簿価切下げについては、「期中洗替え法」によることが原則とされました。
ただし、期中適用指針の適用前に企業会計基準適用指針第32号又は企業会計基準適用指針第14号に基づき「切放し法」を適用していた場合には例外的に継続適用を認め、当期中会計期間末に期中切放し法を適用する場合にはその旨を注記します。
(ウ)一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理
期中会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高は、次のように算定されます。
- 一般債権の貸倒実績率等が前年度の財務諸表の作成において使用した貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられる場合には、期中会計期間末において、前年度末の決算において算定した貸倒実績率等の合理的な基準を使用することができる。
- 期中において前年度の貸倒実績率等から著しい変動があり見直しを行った場合に、当該見直しを行った後の期中会計期間末において見直し後の貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられるときは、当該見直し後の貸倒実績率等の合理的な基準を使用することができる。
(エ)未実現損益の消去における簡便的な会計処理
連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産に含まれる期中会計期間末における未実現損益の消去にあたっては、期中会計期間末在庫高に占める当該棚卸資産の金額及び当該取引に係る損益率を合理的に見積って計算することができるとされています。
また、損益率については次のように算定できるとされています。
- 前年度から取引状況に大きな変化がないと認められる場合には、前年度の損益率や合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用して計算することができる。
- 期中において損益率の見直しを行った場合には、当該見直しを行った後の期中会計期間末から取引状況に大きな変化がないと認められるときは、見直した損益率や見直し後の合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用して計算することができる
他の会計基準等についての修正
従来より、他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針の一部において四半期財務諸表又は第二種中間財務諸表等の取扱いが定められていましたが、個別のテーマに関する企業会計基準及び企業会計基準適用指針については「年度の会計処理及び開示を取り扱う」ものと整理し、期中財務諸表の取扱いは期中会計基準等に、第二種中間財務諸表等の取扱いは中間作成基準等にそれぞれ集約されました。
■他の企業会計基準等が定める四半期財務諸表の取扱い
他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針において定めている四半期財務諸表の取扱いを次のとおり期中会計基準等に取り込まれています。
- 会計処理については、期中特有の会計処理及び簡便的な会計処理を除き、年度と同様の会計処理を行うこととなるため、四半期固有の取扱いを定めたもののみを期中会計基準等に引き継ぎ、年度と同様の取扱いを定めたものは引き継がない。
- 注記事項については、期中会計基準等において開示が求められていない注記事項は原則として期中財務諸表において開示を要しないと考えられる旨を注記事項に関する基本的な考え方として示し、当該考え方に従って開示を求めるもののみを引き継ぎ、四半期財務諸表での注記を省略できるとの定めは引き継がない。
■他の企業会計基準等が定める中間財務諸表の取扱い
他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針において第二種中間財務諸表等の取扱いを定めていたもののうち、四半期財務諸表及び第一種中間財務諸表等の取扱いを定めていない以下の取扱いについては、次のとおり期中財務諸表における取扱いを明らかにし、期中会計基準等に取り込まれました。
(ア) 役員賞与の会計処理
企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」第14項では、「役員賞与の金額が事業年度の業績等に基づき算定されることとなっているため中間会計期間において合理的に見積ることが困難な場合や、重要性が乏しいと想定される場合には、中間会計期間においては、費用処理しないことができる。」とされていました。
期中財務諸表においても同様に、役員賞与の金額が事業年度の業績等に基づき算定されることとなっているため期首からの累計期間において合理的に見積ることが困難な場合や、重要性が乏しいと想定される場合には、期首からの累計期間においては、費用処理しないことができるとされています。
(イ) 自己株式の処分及び消却
自己株式の処分及び消却の会計処理(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下、「自己株式等会計基準」)第10項及び第11項)の結果、期中決算において、その他資本剰余金の残高が負の値になった場合の取扱い(自己株式等会計基準第12項)については、自己株式等会計基準第42項では、中間決算において負の値となったその他資本剰余金をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんするとき、年度決算においては洗替処理を行うとされていました。
期中会計基準においても、6か月ごとより高い頻度で期中会計基準に従い期中財務諸表を作成する場合には、その後の期中決算において、洗替処理を行います。
中間作成基準等の一部改正
中間作成基準等の一部改正において、中間作成基準等の適用対象となる中間連結財務諸表及び中間財務諸表が、第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表であることを明確化されています。
また、他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針における中間連結財務諸表及び中間財務諸表の取扱いについては、期中会計基準との整合性を考慮し、第二種中間財務諸表等の取扱いとして、内容を維持したまま中間作成基準等に取り込まれています。
3.適用時期
期中会計基準等は、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の最初の期中会計期間から適用されます。
また、期中会計基準等の適用初年度において期中会計基準等の定めに従い会計方針を変更する場合、遡及適用を求めず、新たな会計方針を適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用されます。
4.参考資料
詳細は、以下をご参照ください。
https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards/y2025/2025-1016.html


