改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」の公表について

1.はじめに

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、2025年3月11日に改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「本改正実務指針」)を公表しました。

本実務指針は、2024年9月20日に公表した移管指針公開草案第15号(移管指針第9号の改正案)「金融商品会計に関する実務指針(案)」に寄せられた意見を踏まえて検討が行われ、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものです。

2.改正の経緯

改正の背景として、近年、ファンドに非上場株式を組み入れた金融商品が増加しているという状況があります。

現行の移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」第132項のもとでは、企業が投資する組合等への出資の評価に関して、当該組合等の構成資産が金融資産に該当する場合には企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、「金融商品会計基準」)に従って評価し、当該組合等への出資者である企業の会計処理の基礎とします。
金融商品会計基準では、市場価格のない株式は取得原価をもって貸借対照表価額とする(金融商品会計基準第19項)ため、企業が投資する組合等の構成資産が市場価格のない株式である場合、これらについても取得原価で評価することになります。

本改正実務指針は、近年増加傾向にあるファンドに非上場株式を組み入れた金融商品について、これらの非上場株式を時価評価することで財務諸表の透明性が向上し、投資家に対して有用な情報が開示及び提供され、その結果、国内外の機関投資家からより多くの成長資金がベンチャーキャピタルファンド等に供給されることが期待されることから、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価評価するように速やかに会計基準を改正すべきとの要望を受け、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を中心とする範囲に限定し、上場企業等が保有するベンチャーキャピタルファンドの出資持分に係る会計上の取扱いの見直しを目的として改正が行われたものです。

3.本改正実務指針の概要

組合等の構成資産の時価評価とその要件

本改正実務指針では、本実務指針第132項の定めにかかわらず、次の要件を満たす組合等への出資は、当該組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができるとしています。

① 組合等の運営者は出資された財産の運用を業としている者であること
② 組合等の決算において、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価をもって評価していること

この点について、対象となる組合等の範囲に関して、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等とそれ以外の組合等を明確に区分することは困難と考えられたため、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等を直接的に定義することは行わないことされました。一方、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価の信頼性を担保するため、組合等の範囲に関して、要件が設けられています。

また、時価評価を行う場合、評価差額の持分相当額は純資産の部に計上することとされています(本実務指針第132-2項)。この点について、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とした場合における評価差額の持分相当額を当期の損益として処理するか又は純資産の部に計上するかについては、両者とも支持する意見が聞かれたものの、審議の結果、他の現行基準との内的整合性を重視する観点から、純資産の部に計上することとされました。

構成資産の時価評価を行う組合等の選択

組合等への出資者である企業は、本実務指針第132-2項の定めを適用する(時価評価する)組合等の選択に関する方針を定め、組合等への出資時に、その方針に基づき当該定めを適用する(時価評価する)か否かを決定します。
当該定めを適用することとした組合等への出資の会計処理は、出資後に取りやめることはできないとされています(本実務指針第132-3項)。

この点について、範囲に含まれるすべての組合等を適用対象とするか、組合等の単位で選択できるようにするかについては、組合等への出資の目的や性質が異なる場合があると考えられることから、範囲に含まれるすべての組合等について一律に適用対象とするのは必ずしも適切でないため、組合等への出資者である企業が本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針を定め、当該方針に基づき、組合等への出資時に本実務指針第132-2項の定めの適用対象かどうか決定することとされました。

これに合わせて、企業の意思により自由に適用を終了することを認めることは、会計処理の透明性や比較可能性の観点から適切ではないと考えられるため、本実務指針第132-2項の会計処理を出資後に取りやめることはできないとされています。

減損処理

本実務指針第 132-2 項の定めを適用する組合等の構成資産である市場価格のない株式については、市場価格のない株式等の減損処理に関する定め(本実務指針第92項)に代わり、時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第91項)に従って減損処理を行いうこととされています(本実務指針第132-4項)。

開示

本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等への出資については、企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下、「時価算定適用指針」)第24-16項で定める事項の注記に併せ、次の事項を注記することされています。
① 本実務指針第132-2項の定めを適用している旨
② 本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針
③ 本実務指針第132-2項の定めを適用している組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額

この点について、時価算定適用指針第24-16項は、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資については、時価の注記を要しないこととし、その場合、注記していない旨及び時価算定適用指針第24-16項の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額を注記することとされています。

なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないこととしています。

4.適用時期及び経過措置

適用時期

本実務指針は、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することされています。

また早期適用として2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができるとされています。

経過措置

本実務指針の適用初年度の期首時点において既に出資している組合等の取扱いについて、経過措置が設けられています。

具体的には、組合等への出資者である企業が定めた方針に基づいて本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等を決定し、次の会計処理を行うこととされています。

(ア) 適用初年度の期首時点において、本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。この場合、適用初年度の期首時点での評価差額の持分相当額を適用初年度の期首のその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減する。
(イ) 適用初年度の期首時点において、本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第91項)に従って減損処理を行い、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。この場合、減損処理による損失の持分相当額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する。

この点について、本実務指針第132-2項の定めを適用するにあたり、組合等への出資者である企業が定めた方針に合致する組合等を過去に遡って決定することを求めるのは、実際には行っていなかった判断を事後的に求めることになることから、適切でないと考えられるため、適用初年度の期首時点において、組合等への出資者である企業が定めた方針に基づいて本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等を決定することとしています。

また、会計処理の遡及適用に関しては、市場価格のない株式の時価の算定には見積りの要素が多く含まれ、事後的判断を利用せずに市場価格のない株式の時価を遡及的に算定することは実務上困難であると考えられること、及び過去に遡ってどの時点で 時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第 91項)に基づく減損処理が必要であったか識別することは困難であると考えられることから、遡及適用を求めず、適用初年度の期首から将来にわたって適用することとし、適用後の当期純利益等への影響が適切となるように経過措置を設けることとされています。

5.参考資料

詳細は、以下をご参照ください。
https://www.asb-j.jp/jp/ikan/y2025/2025-0311.html

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