1.はじめに
企業会計基準委員会(以下「ASBJ」)は、2024年3月22日に、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」)及び、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」)の改正を公表しました。
また上記改正に伴い、日本公認会計士協会(以下「JICPA」)は同日、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(以下「資本連結実務指針」)の改正を公表しています。
2.本適用指針等改正の経緯
2023年度税制改正において、いわゆる「パーシャルスピンオフ税制」が新たに設けられました。
これは従来、完全子会社株式のすべてを現物分配する分割型分割や現物配当に限り、適格組織再編として課税の対象外とすることを認められていたところ、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置です。
当初2023年度末までの時限措置とされていましたが、2024年度税制改正にて、要件の変更はあるものの、適用期限が2028年3月31日まで延長されています。
これを受けて、パーシャルスピンオフに関する会計処理を検討することが求められ、ASBJ及びJICPAから、関連する適用指針及び実務指針の改正が公表されたものです。
3.本適用指針等改正の論点
本適用指針等の改正では、パーシャルスピンオフの実施により保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合について、主に次の3点を論点として取扱いを定めています。
1. 現物配当を行う会社の個別財務諸表上の会計処理
2. 現物配当を行う会社の連結財務諸表上の会計処理
3. 現物配当を行う子会社株式に関する連結税効果会計
1.現物配当を行う会社の個別財務諸表上の会計処理
現物配当を行う会社の個別財務諸表上では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額するとされています。
改正前の自己株式等会計適用指針では、現物配当を行う場合、原則として配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益として計上し、配当財産の時価をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額することとされていますが、「分割型の会社分割(按分型)」や「保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する」場合には、適正な帳簿価額をもって会計処理をする取扱いが設けられていました(自己株式等会計適用指針第 10 項(1)及び(2))。
改正自己株式等会計適用指針においては、これら適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する一定の場合に、「保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合」が追加されています(自己株式等会計適用指針第 10 項(2-2))。
2.現物配当を行う会社の連結財務諸表上の会計処理
改正資本連結実務指針では、保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合、分離元企業の連結財務諸表においても、連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するのが適切と考えられています。
ただし連結財務諸表上の帳簿価額と個別財務諸表上の帳簿価額との間に生じる差額に関しては、配当部分に相当する子会社株式に係る個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額の差額(投資の修正額)の取扱いが規定されています。
なおパーシャルスピンオフでは、子会社株式の持分の一部を残すため、残存する持分にかかる個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額の差額(投資の修正額)の取扱いについても規定されています。
3.現物配当を行う子会社株式に関する連結税効果会計
改正税効果適用指針では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、「連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるもの」として定義に追加することにより、税効果会計の適用対象とされています。
上記のとおり改正適用指針等においては、パーシャルスピンオフを行った場合、現物配当実施会社の個別財務諸表及び連結財務諸表のいずれにおいても、当該現物配当に係る損益を計上しないとされています。このため、改正前の税効果適用指針第4項の定義に従って検討した場合、現物配当を行う会社の連結財務諸表上、連結財務諸表固有の一時差異は生じているものの、当該一時差異が解消する時に連結財務諸表における利益が減額又は増額されないことから、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異の定義に直接的には該当しないと考えられます。
しかし、改正税効果適用指針においては、当該一時差異についても税効果適用指針が定める連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異に係る定めを適用するのが適切と考えられています。
4.適用時期
改正自己株式等会計適用指針及び改正税効果適用指針は、公表日以後適用することとされています。また、適用日の前に行われた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされています。
改正資本連結実務指針についても公表日以後適用することとされています。
なお同様に、改正実務指針の適用日前に行われた取引については会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされています。
5.参考資料
本会計基準等の詳細は、以下をご参照ください。
ASBJ/改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表について
https://www.asb-j.jp/jp/implementation_guidance/y2024/2024-0322.html
JICPA/会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正について
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20240322ruy.html