1.はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)スタッフ及び香港公認会計士協会(HKICPA)スタッフは、2020年3月24日に共同のリサーチ・ペーパー「のれん:企業結合後の会計処理の改善及び定量的調査の更新」(以下「本リサーチ・ペーパー」)を公表しました。
本リサーチ・ペーパーは、長年議論の対象となってきたのれんの事後の会計処理に関して、目的適合的で適時な分析と議論を世界的なリサーチ・プロジェクトに提供し、ASBJスタッフ及びHKICPAスタッフ(以下合わせて「両スタッフ」)の見解を提示することを目的としています。
なお、本リサーチ・ペーパーは、2020年4月に予定されている会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)会議の討議に使用するために提出されています。また、本リサーチ・ペーパーの観察及び見解は、ASBJ スタッフ及び HKICPA スタッフのものであり、必ずしも ASBJ 又は HKICPA の見解を反映するものではありません。
2.本リサーチ・ペーパーの概要
定量的調査
両スタッフはのれん残高の最近の推移を示すために 2014年から2018年の間の、のれんの定量的調査を更新しました。その結果のれんの金額が、2014年から2018年の期間にわたり概ね継続的に増加していることが明らかになりました。
この調査結果は、「too little, too late」の問題として知られている、のれんの減損が適時に認識されていない可能性が高いとの観察結果を示しています。
本リサーチ・ペーパーの範囲及び取得のれんの測定基礎
◆範囲
本リサーチ・ペーパーは、IFRS第3号でのれんとして定義されている「取得のれん(AGW)」の事後の会計処理を範囲としています。
ASBJ スタッフ及び HKICPA スタッフの両者は、取得のれんは自己創設のれんから独立した別個の会計処理単位であると考えています。
◆取得のれんの測定基礎
取得のれんは、取得原価で測定すべき資産であり、その取得原価は、時の経過に伴う費消を表すべきであるとされています。
また、取得のれんは減損テストの対象となり、減損テストを実施する場合、資金生成単位(CGU)の回収可能価額は、将来キャッシュ・フローを割り引いて算定されます。
減損に追加して償却を再導入することの論拠
上記の定量的調査における観察結果を踏まえて、本リサーチ・ペーパーでは、取得のれんの企業結合後の会計処理、特に償却を再導入すべきか否かについて議論が行われています。
両スタッフは、取得のれんを時の経過とともに規則的に償却し、減損の兆候がある場合に取得のれんが帰属する資金生成単位を対象として減損テストを実施すべきと考えており、この共通の見解に対する論拠をそれぞれの観点から説明しています。
◆ASBJスタッフの見解
ASBJスタッフは、取得のれんは「減耗性の資産」(時の経過とともに価値が低下する資産)であり、この性質を忠実に表現するために、財務諸表において価値の低下を反映する必要があると考えています。
ASBJスタッフは、この減耗する性質及びその他の要因のため、取得のれんは減損テストに加えて償却すべきと提案しています。
減損は取得のれんの帳簿価額における回収可能性の不足を示す役割を果たす一方、償却は取得のれんの費消を示し、両方必要であるとしています。
◆HKICPAスタッフの見解
HKICPAスタッフは、のれんは、企業の公正価値と現行の会計基準の下で認識される識別可能な純資産(帳簿価額)との差異として説明される可能性があると考え、これを「経済的なのれん」と呼称しています。
「経済的なのれん」の価値は時間とともに絶えず変化し、取得のれんは、取得日時点の「経済的なのれん」の静的なスナップショットであると考えています。時の経過とともに、取得のれんとして認識された金額は、企業の現在の公正価値や企業の現在の帳簿価額を次第に反映しなくなり、したがって貸借対照表項目としての意味が乏しくなると考えられます。
そのためHKICPAスタッフは、次の理由から兆候に基づく減損を伴う償却が減損のみの枠組みよりも取得のれんの性質をより良く反映すると考えています。
(1) 取得のれんは被取得企業及び統合後の企業を次第に表さなくなるという事実をより良く反映する。
(2) 企業結合がどのように利用されるかを示すより良い機会を提供する。
(3) 有機的に成長する企業と企業結合を通じて成長する企業の間の比較可能性を改善する。
またHKICPAスタッフは、減損のみモデルにより次第に大きくなるのれんの残高は、経営者のインセンティブに好ましくない影響を与え、リスクを誤表示させる可能性があるが、償却がのれんの残高を適時に費用配分することを確実にすると考えています。
償却期間及び償却方法
両スタッフは、取得のれんを構成要素に分解して各構成要素に応じて異なる償却期間を使用するのではなく、各企業結合に対して認識される取得のれん全体に単一の償却期間を使用して償却すべきと考えています。
◆ASBJスタッフの見解
ASBJ スタッフは、償却期間は、経営者が、キャッシュ・インフローが企業結合により増加することを見込む期間に基づくべきだと考えています。
また、目的適合性のある情報の提供と「too little, too late」の問題への懸念に対応する必要性とのバランスをとるため、基準設定主体が償却期間の最長の年数を設定すべきと考えています。
◆HKICPAスタッフの見解
HKICPA スタッフは、取得のれんの償却期間は、予想される企業結合の利用の観点から決定されるべきであると考えています。
また、企業はどのような償却期間及び償却パターンが予想される企業結合の利用を最もよく反映すると見込まれるかを決定するために判断を用いるべきであると考えています。
予想される企業結合の利用を反映する原則に基づいて償却期間を決定するプロセスは、経営者及び利用者の両方に便益があると考えています。
その便益とは、経営者にとっては、企業結合日前に企業結合後の計画について批判的に考えることが必要になるためであり、利用者にとっては企業結合について経営者が予想する時間軸についての洞察を得ることになるとしています。
3.参考資料
本リサーチ・ペーパーの詳細は、以下をご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/discussion/2020-0324.html