企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」等の公表について

1.はじめに

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、2019年10月30日に、収益認識に関する会計基準等の公開草案(以下、合わせて「本公開草案」)を公表しました。

今回公表された公開草案は、以下に記載するものです。
・企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)
「収益認識に関する会計基準(案)」
・企業会計基準適用指針公開草案第66号(企業会計基準適用指針第30号の改正案)
「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」
・企業会計基準公開草案第67号(企業会計基準第12号の改正案)
「四半期財務諸表に関する会計基準(案)」
・企業会計基準適用指針公開草案第67号(企業会計基準適用指針第14号の改正案)
「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」
・企業会計基準適用指針公開草案第68号(企業会計基準適用指針第19号の改正案)
「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(案)」

ASBJは2018年3月30日に、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、以下の企業会計基準及びその適用指針を公表しています。
・企業会計基準第29号
 「収益認識に関する会計基準」(以下「2018年会計基準」)
・企業会計基準適用指針第30号
「収益認識に関する会計基準の適用指針」

2018年会計基準においては、注記について、2018年会計基準を早期適用する場合の必要最低限の注記のみを定め、2018年会計基準が適用される2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首までに、注記事項の定めを検討することとされていました。

また、収益認識の表示に関する次の事項についても同様に、2018年会計基準が適用される時までに検討することとされていました。
(1) 収益の表示科目
(2) 収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)の区分表示の要否
(3) 契約資産と債権の区分表示の要否

本公開草案は、それら収益認識に関する会計基準等の表示及び注記に関する部分の定めについて改正が行われたものです。
なお本公開草案のコメント募集期限は、2020年1月10日までとされています。

2.本公開草案の概要

本公開草案の概要は以下のとおりです。

表示

顧客との契約から生じる収益の区分表示又は注記及び表示科目(本会計基準改正案第 78項及び本適用指針改正案第104-2項)

本公開草案では、顧客との契約から生じる収益の額を、企業の実態に応じて、適切な科目をもって損益計算書に表示するか、注記することが提案されています。
また、顧客との契約から生じる収益は、例えば、売上高、売上収益、営業収益等として表示することが提案しています。

貸借対照表上の表示科目(本会計基準改正案第79項及び本適用指針改正案第104-3 項)

2018年会計基準では、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を、企業の実態に応じて、適切な科目をもって貸借対照表に表示するとされています。
本公開草案では、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権の例として、下記が挙げられています。
(1) 契約資産…契約資産、工事未収入金等
(2) 契約負債…契約負債、前受金等
(3) 顧客との契約から生じた債権…売掛金、営業債権等

契約資産と顧客との契約から生じた債権の区分表示又は注記の要否(本会計基準改正案第79項及び第158項)

2018年会計基準では、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができることとし、当該区分表示及び注記の要否は、2018年会計基準が適用される時までに検討することとされていましたが、本公開草案においては、当該記載を削除することが提案されています。

その結果、本会計基準改正案第 79 項に従って、契約資産と顧客との契約から生じた債権を貸借対照表に区分して表示するか、貸借対照表に区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することが提案されています。

顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合の取扱い(本会計基準改正案第78-3 項)

本公開草案では、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)は、損益計算書において区分して表示することが提案されています。

顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示(本会計基準改正案第157項)

国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS第15号」)において要求されている顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示に関しては、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」)の見直しと合わせて検討することとし、本公開草案において当該開示は求めないことが提案されています。

注記事項

注記事項の開発にあたっての基本的な方針(本会計基準改正案第101-2項から第101-6項)

本公開草案では、注記事項の検討を進めるにあたっての基本的な方針として、次の対応を行うことが提案されています
(1) 包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを本会計基準改正案に含める。また、原則としてIFRS第15号の注記事項のすべての項目を本会計基準改正案に含める。
(2) 企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にする。

これまで国際的な整合性を図る観点から会計基準等の開発が行われた際、会計処理については国際的な会計基準に基づく財務情報と大きく異ならないように開発が行われた場合であっても、注記事項については、必ずしも同様の対応は行われていませんでした。

しかし、収益は企業の主な営業活動からの成果を表示するものとして、企業の経営成績を表示するうえで重要な財務情報と考えられ、収益に関する情報によって、財務諸表利用者は企業の顧客との契約及び当該契約から生じる収益を適切に理解できるようになり、より適切な将来キャッシュ・フローの予測、及びより適切な経済的意思決定ができるようになると考えられるため、本公開草案においては、会計処理に関する定めと同様に、注記事項についても原則として IFRS第15号と同様の内容を取り入れることが提案されています。

一方で、開示目的を定めたうえで、企業の実態に応じて、企業自身が当該開示目的に照らして注記事項の内容を決定することとしたほうが、より有用な情報を財務諸表利用者にもたらすことができると考えられるため、本公開草案では、IFRS 第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを設けることとし、開示目的を達成するために必要な注記事項の開示の要否を、企業の実態に応じて企業自身で判断するものとされています。

重要な会計方針の注記(本会計基準改正案第80-2項及び第80-3項)

本公開草案では、顧客との契約から生じる収益に関して、次に定める項目を重要な会計方針として注記することが提案されています。
(1) 企業の主要な事業における主な履行義務の内容
(2) 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)

ただし、上記に定める項目以外にも、「収益を理解するための基礎となる情報」として記載することとした内容のうち、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記することが提案されています。

収益認識に関する注記

開示目的(本会計基準改正案第80-4項及び第80-5項並びに第164項及び第165項)

「注記事項の開発にあたっての基本的な方針」に記載した基本的な方針のもと、顧客との契約から生じる収益に関する情報を注記するにあたっての包括的な定めとして開示目的「顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること」を設け、開示目的を達成するための収益認識に関する注記として、次の項目を示すことが提案されています。
(1) 収益の分解情報
(2) 収益を理解するための基礎となる情報
(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

収益認識に関する注記の記載方法等(本会計基準改正案第 80-7項から第80-9項)

本公開草案では、収益認識に関する注記の記載方法等について、次の提案がされています。

(1) 我が国においては、個別の会計基準で定める個々の注記事項の区分に従って注記事項の記載がなされていることが多いが、収益認識に関する注記を記載するにあたっては、注記事項の構成に従って注記を記載しないことができ、開示目的に照らして、企業の収益及びキャッシュ・フローを理解するために適切であると考えられる方法で注記を記載する。
(2) 収益認識に関する注記として記載することとした内容を、重要な会計方針として注記している場合には、収益認識に関する注記として記載しないことができる。
(3) (2)における重要な会計方針以外の注記について、収益認識に関する注記として記載することとした内容を財務諸表上の他の注記事項として記載している場合には、収益認識に関する注記を記載するにあたり、当該他の注記事項を参照することにより記載に代えることができる。

収益の分解情報(本会計基準改正案第 80-10 項及び第 80-11 項並びに本適用指針改正案第106-3項から第106-5項)

本公開草案では、当期に認識した顧客との契約から生じる収益について、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報の注記を求めることが提案されています。
また、企業会計基準第 17 号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下「セグメント情報等会計基準」)を適用している場合、収益の分解情報と、セグメント情報等会計基準に従って各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記することが提案されています。

収益を理解するための基礎となる情報(本会計基準改正案第80-12項から第80-19項及び本適用指針改正案第106-6項及び第106-7項)

本公開草案では、顧客との契約が、財務諸表に表示している項目又は収益認識に関する注記における他の注記事項とどのように関連しているのかを示す基礎となる情報として、次の事項を注記することが提案されています。
(1) 契約及び履行義務に関する情報
(2) 取引価格の算定に関する情報
(3) 履行義務への配分額の算定に関する情報
(4) 履行義務の充足時点に関する情報
(5) 本会計基準改正案の適用における重要な判断

当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

本公開草案では、当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、「契約資産及び契約負債の残高等」及び「残存履行義務に配分した取引価格」を注記することが提案されていますが、これらの注記については、財務諸表作成者から作成負担に対する懸念が寄せられており、これらの注記を求めることの要否について別途検討が行われています。

これらの注記は、IFRS 第15号においても、実務上の負担を考慮し、当初の提案から一定の軽減を図ったうえで、有用性の観点から要求されたものであり、本公開草案においてはIFRS第15号における検討を考慮するとともに、我が国においてのみ実務上の負担の観点から当該注記を取り入れないとすることは困難であると考えられることから、次の対応を図ったうえで、本公開草案に含めることが提案されました。

(1) 契約資産及び契約負債の残高等(本会計基準改正案第80-20項及び第189項並びに本適用指針改正案第106-8項及び第191項)
当期中の契約資産及び契約負債の残高に重要な変動がある場合には、その内容について注記する。また、IFRS第15号においては、当該記載には、定性的情報と定量的情報を含めなければならないとされているが、本公開草案では、当該記載には必ずしも定量的情報を含める必要はないものとする。
(2) 残存履行義務に配分した取引価格(本会計基準改正案第80-21項から第80-24項及び第 190項から第202項)
残存履行義務に配分した取引価格の注記については、IFRS第15号と同様に、当初の予想期間が1年以内の契約の一部である履行義務について、残存履行義務に配分した取引の注記に含めないことを認める。また、当該実務上の便法に加えて、FASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)の Topic 606「顧客との契約から生じる収益」(以下「Topic 606」)において、IFRS第 15号に追加して定められた実務上の便法を含める。さらに、残存履行義務に係る実務上の便法を適用した場合の注記に関して、Topic 606の注記の定めにおいてIFRS第15号における注記の定めも包含されているため、Topic 606 に基づく注記の定めを基礎として定めを設ける。

工事契約等から損失が見込まれる場合(本適用指針改正案第106-9項及び106-10項)

企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下「工事契約会計基準」)に関する注記事項は、収益認識会計基準が適用される時に廃止されることとなるため、本公開草案においては、工事契約会計基準に定める次の注記を引き継ぐことが提案されています。
(1) 当期の工事損失引当金繰入額
(2) 同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合、棚卸資産と工事損失引当金の相殺の有無と関連する影響額

連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記(本会計基準改正案第 80-25項及び第80-26項)

本公開草案では、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、収益認識に関する注記の定めにかかわらず、本会計基準改正案第80-5項に掲げる項目のうち、(1)「収益の分解情報」及び(3)「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」については、注記しないことができることが提案されています。
また、本会計基準改正案第 80-5項(2)「収益を理解するための基礎となる情報」の注記を記載するにあたり、連結財務諸表における記載を参照することができることとされています。

四半期財務諸表における注記(四半期会計基準案第19項(7-2)、第25項(5-3)、第58-5項及び第58-6項)

本公開草案では、既存の四半期会計基準の注記事項の定め及び国際的な比較可能性を考慮した結果、すべての四半期の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表において、年度の期首から四半期会計期間の末日までの期間に認識した顧客との契約から生じる収益について収益の分解情報の注記を要求することが提案されています。

会計処理の見直しを行ったもの

契約資産の性質(本会計基準改正案第77項及び第150-3項)

2018 年会計基準においては、契約資産を金銭債権として取り扱うこととされていましたが、本公開草案においては、国際的な会計基準における取扱いを踏まえ、契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及せず、契約資産に係る貸倒引当金の会計処理について、金融商品会計基準における債権の取扱いを適用すること、また、外貨建ての契約資産に係る外貨換算について、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」の外貨建金銭債権債務の換算の取扱いを適用することが提案されています。

3.適用時期及び経過措置

適用時期

本公開草案の改正会計基準等は、2018年会計基準の適用日を踏襲し、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。

また早期適用として、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができるとされています。なお、早期適用については、追加的に、2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができるとされています。

経過措置

経過措置として、本公開草案の改正会計基準等の適用初年度に改正会計基準等の適用により表示方法の変更が生じる場合には、当該変更は、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に定める会計基準又は法令等の改正による表示方法の変更として取り扱うこととされています。

表示方法の変更が生じる場合には、適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表(注記事項を含む)及び前事業年度の個別財務諸表(注記事項を含む)(以下合わせて、「適用初年度の比較情報」)について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとされています。また、この場合には、適用初年度において、影響を受ける連結財務諸表及び個別財務諸表の主な表示科目に対する影響額を記載することとされています。

また、本公開草案の改正会計基準等の適用初年度においては、改正会計基準等において定める注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができるとされています。

なお2018年会計基準等について、本公開草案の改正会計基準等が公表された時点で適用時期を迎えていない(2018年会計基準等の早期適用が可能である)ことが考えられるため、2018年会計基準に定められていたとおり、2018年会計基準等は、2021年3月31日以前に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用できることが提案されています(ただし、本公開草案の改正会計基準等を適用している場合を除く)。

4.参考資料

本公開草案等の詳細は、以下をご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2019/2019-1030-1.html

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