租税調査会研究報告第35号「法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理」の公表について

1.はじめに

2019年10月7日に日本公認会計士協会(税務調査会)は、租税調査会研究報告第35号「法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理」(以下、「本研究報告」)を公表しました。

経済のAI・IT化及びグローバル化が進展し、企業の競争が一段と厳しさを増している状況の中で、役員報酬の改革を通じ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促すことが期待されています。

このような状況の中、税法においては平成28年度及び平成29年度において、役員報酬の改革に対応した改正として、株式報酬等の導入等に関する税制改正が行われた一方で、法人税法上、役員給与は恣意性の排除の観点から損金算入が制限されてきたこともあり、これらの立法の在り方やその解釈をめぐって従来から多くの議論があります。また、所得税法上も退職所得が優遇されていることもあり、所得区分の問題など古くから議論がなされています。

本研究報告は、企業における役員報酬制度の改革を後押しするために、税法上残された課題を明確化し、実務において参考となるべき事項を取りまとめることを目的とし、役員給与に関する税務上の論点を再点検し、現行税制についてメリハリのある制度設計とするための見直しの提案を行っています。

2.役員報酬に関する税法上の基本的な考え方

法人税法

役員又は使用人に対する勤労の所得は給与と総称されます。法人税法34条1項は、役員給与のうち、退職給与で業績連動給与に該当しないもの及び使用人兼務役員に対する使用人分給与を除き、①定期同額給与、②事前確定届出給与及び③業績連動給与のうち、一定の要件に該当するものという3種類の給与のいずれかに該当しないものは、全額損金不算入と定めています。なお、不相当に高額なものや事実を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることによりその役員に支給する給与についても、損金の額に算入されません(法人税法34条2項及び3項)。

退職給与は、業績連動給与に該当するものを除き、不相当に高額な部分の金額に該当しない限り、損金の額に算入されます(法人税法34条1項本文括弧内及び2項)。

所得税法

(1) 給与所得

給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいいます(所得税法28条1項)。法人の役員が受ける給与も給与所得に含まれ、この収入形態としては、金銭に限らず、金銭以外の物又は権利その他経済的利益による収入も含まれます。したがって、ストック・オプションや株式引受権又はそれに相当する権利の付与も過去の功労に対する報奨又は将来の精勤を確保するためのインセンティブ報酬としての性格を有することから給与に該当します。

(2) 退職所得

退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいいます(所得税法30条1項)。退職所得は、退職に基因して受けた長年の勤務に対する勤続報奨的給与であって、給与の一部の一括後払いの性質を有します。雇用関係ないしそれに類する関係を基礎とする役務の対価である点では、給与所得と異なる性質を持つものではないとされますが、しかしそれが一時にまとめて支給されること、退職後の生活の糧であり担税力が低いと考えられること等に鑑み、累進税率の適用を緩和する必要があるため、給与所得とは別の所得類型とされています。

さらに、退職所得の金額は、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額(勤続5年以下の役員に対するものを除く)とされています(所得税法30条2項)。このため、退職所得と給与所得との区別がしばしば問題となります。

3.本研究報告における提案の概要

本研究報告における提案の概要は以下の通りです。見出しは本研究報告の目次の各項目を示しています。

Ⅱ 在任時報酬

損金算入が可能となる事前確定届出給与について、増額支給をしたケースについて、支給額の全額を損金不算入されるのではなく、増額部分に限り損金不算入とすることが望ましいのではないかと提案されています。

Ⅲ 役員退職給与

退職給与に関して、業績連動給与に該当すれば、損金算入要件を満たさない限り退職金を損金に計上することができないこととされていますが、業績連動給与の定義が必ずしも明確ではないため、予測可能性の観点から、通達等によって判断可能な程度に、更なる例示又は判断基準等が示されることが望ましいと提案されています。

また、譲渡制限付株式等が交付された場合に当該役員が死亡退職したときは、給与等課税額が生じないことから、支給法人において損金算入できないこととなりますが、譲渡制限付株式が交付される場合においても、役員給与として損金算入することを認めることを検討する余地があるのではないかと提案されています。さらに、代表者が交代する場合に引継期間を設けるときは、実質的に退職したと同様の事情にあるかどうかが問題となり得るところ、業務の引継の必要性に鑑み、全体的・総合的に判断することについて、具体的な取扱いを通達等で明確化することが望ましいと提案されています。

Ⅳ 役員給与の減額・返還

役員給与を期中で変更する場合、例えば業績予想の修正開示が必要になる場面において役員給与の減額をすることは業績悪化改定事由に該当する旨を通達等によって明確化することが望ましいと提案されています。

また、役員給与の支給を受けた役員が、一定の事由に基づき支給企業に返還した場合、役員給与の支給に係る源泉所得税の取扱いにおいて、その返還額に係る源泉所得税額は過誤納金に該当する旨を明確化することが望ましいと提案されています。

Ⅴ 役員給与に関するその他の諸問題

現行税制では、業績連動報酬は非上場会社において損金算入することができないところ、非上場会社においても計算書類の電子公告による開示を義務付けること等を通じて、損金算入を認める余地があるのではないかと提案されています。

Ⅵ 企業活動のグローバル化と役員給与制度について

国際的な観点から、事前確定届出給与の届出期限について、定期同額給与の場合と同様に、特別な事情があると認められる場合には、4か月経過後に届出を行うことができるように届出期限の特例を認めることが望ましいと提案されています。

また、業績連動給与は、親会社が内国法人であることが想定されているところ、外国企業の子会社であっても損金算入要件を満たすことができるよう、開示方法を拡充することが望ましいと提案されています。

4.参考資料

本研究報告の詳細は、以下をご参照ください。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20191007fae.html

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