企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」の公表について

1.はじめに

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、2019年10月30日に、会計上の見積りの開示に関する会計基準の公開草案(以下、合わせて「本公開草案」)を公表しました。

本公開草案は、国際会計基準審議会(IASB)が 2003年に公表した国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」(以下「IAS第1号」)第125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、財務諸表利用者にとって有用性が高い情報として日本基準においても注記情報として開示を求めることを検討するため、ASBJにおいて2018年12月より審議を開始し、その結果を公表したものです。

なお本公開草案のコメント募集期限は、2020年1月10日までとされています。

2.本公開草案の概要

本公開草案の概要は以下のとおりです。

会計上の見積りの開示目的(14項及び第15項)

財務諸表を作成する過程では、財務諸表に計上した項目の金額を算出するにあたり、会計上の見積りが必要となるものがあります。会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものですが、見積りの方法や、見積りの基礎となる情報がどの程度入手可能であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々です。

したがって、財務諸表に計上した金額のみでは、当該金額が含まれる項目が翌年度の財務諸表に影響を及ぼす可能性があるのかを、財務諸表利用者が理解することは困難であり、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容についての情報は、財務諸表利用者にとって有用な情報であると考えられます。

そのため本公開草案では、個々の会計基準を改正して会計上の見積りの開示の充実を図るのではなく、会計上の見積りの開示について包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示し、開示する具体的な項目及びその記載内容については当該原則(開示目的)に照らして判断することを企業に求めることが適切と提案されています。

開示目的(第4項)

当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とするとされています。

開示する項目の識別(第5項及び第19項から第21項)

本公開草案では、会計上の見積りの開示として開示する項目を識別するにあたり、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を識別するとされています。

項目の識別における判断

開示する項目の識別にあたり、財務諸表に及ぼす影響の金額的な大きさとその発生可能性を総合的に勘案して企業が判断することとされていますが、何と比較して影響の金額的な大きさを判断するのか、どの程度の影響が見込まれる場合に重要性があるとするのかなど、項目の識別について、判断のための詳細な規準は示さないこととしています。

識別する項目

開示する項目の識別に当たり、当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目するのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高いものに着目して識別することとしており、識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされています

このため、例えば、固定資産について減損損失の認識は行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に及ぼす影響を検討したうえで、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性があるとしています。
なお、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用(一定期間にわたり充足される履行義務に係る収益の認識や、ストック・オプションの費用処理額の見積りなど)、並びに会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債(引当金など)を識別することを妨げないとしています。

また、金融商品や賃貸等不動産の時価情報などのように、注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったものについても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、これらを識別することを妨げないとしています。

会計上の見積りの開示の対象とした項目名の注記(第6項及び第24項)

本公開草案では、識別した項目について、本公開草案に基づいて識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記することを求めることを提案しています。

また、会計上の見積りの開示については、本公開草案に基づき開示された情報であることが明瞭にわかるようにすることが有用であるため、IAS第1号第125項では求められていないものの、当該注記は独立の注記とし、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名はまとめて記載することを求めることを提案しています。

項目名に加えて注記する事項(第7項及び第8項並びに第25項から第28項)

本公開草案では、開示目的に基づき識別した項目のそれぞれについて、会計上の見積りの内容を表す項目名とともに次の事項を注記することを提案しています。

(1) 当年度の財務諸表に計上した金額
(2) 会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

(1)及び(2)の事項の具体的な内容や記載方法(定量的情報若しくは定性的情報、又はこれらの組み合わせ)については、開示目的に照らして判断するとされています。

財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報として、次のものが例示されています。

(1) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
(2) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
(3) 翌年度の財務諸表に与える影響

個別財務諸表における取扱い(第9項)

本公開草案は、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における取扱いとして、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって第7項(2)の注記(会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報)に代えることができることが提案されています。また、この場合、連結財務諸表における記載を参照することができるとされています。

3.適用時期及び経過措置

適用時期

本公開草案は、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することを提案しています。

ただし、公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができるとされています。

経過措置

本公開草案の適用初年度において、本公開草案の適用は、表示方法の変更として取り扱うものの、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第14項の定めにかかわらず、本公開草案に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度における連結財務諸表に関する注記及び前事業年度における個別財務諸表に関する注記(比較情報)に記載しないことができることが提案されています。

4.参考資料

本公開草案の詳細は、以下をご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2019/2019-1030-2.html

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