会計制度委員会研究報告第15号「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」及び 「公開草案に対するコメントの概要及び対応」の公表について

1.はじめに

2019年5月27日に日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、会計制度委員会研究報告第15号「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」を公表しました。

本研究報告は、多くのインセンティブ報酬スキームにおける会計処理が会計基準等で明らかにされていない現状を踏まえ、インセンティブ報酬に係る会計上の取扱い等について検討を行い、日本公認会計士協会における調査・研究の結果及び現時点における考えを取りまとめたものです。

本研究報告は、本文と付録で構成されています。
本文では、現行の会計基準で定められている事項の概要、インセンティブ報酬に関する会計上の論点(総論・各論)、会計上の論点と会社法の関係について考察され、付録では、本文での考察も踏まえ、インセンティブ報酬の一般的なスキームについて、スキームの概要及び税務上の取扱いの概要を記載するとともに、会計処理の背景や具体的な実務上の論点について考察しています。

なおこれらは現時点における調査・研究の成果を踏まえた考察であり、本研究報告は実務上の指針として位置付けられるものではなく、また実務を拘束するものでもありません。

2.現行の会計基準で定められている事項の概要

いわゆるインセンティブ報酬と呼ばれる報酬のうち、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する企業会計基準等において会計処理が明らかにされているものは、株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストッ ク・オプション)、業績連動型ストック・オプション(無償発行のもの)、(従業員向けの)株式交付信託及び権利確定条件付き有償新株予約権です。

◆ストック・オプション等に係る会計処理
ストック・オプション会計基準
企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」

◆株式交付信託に係る会計処理
実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」

◆権利確定条件付き有償新株予約権に係る会計処理
実務対応報告第 36 号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」

3.インセンティブ報酬に関する会計上の論点(総論)

「インセンティブ」と報酬の関係

ここでは、本研究報告で用いる「インセンティブ」及び「報酬」の概念について整理するとともに、「インセンティブ」と「報酬」の関係について検討しています。

「インセンティブ」
単なる報酬ではなく、株式を用いることによる株価上昇への誘因や、業績に応じて報酬額が増減することによる「業績上昇への誘因」を指すとされています。
「報酬」
ストック・ オプション会計基準における「報酬」の定義である「従業員等(役員等)から受けた労働や業務執行の対価として企業が従業員等(役員等)に給付するもの」と定義されています。

費用計上額の測定日(事後的な時価の見直しの要否)

インセンティブ報酬の費用計上額の測定に際しては、オプションや株式のいつの時点の時価を用いるか、という論点が生じます。これらに関して、費用計上額に焦点を当てた検討及び発行されるオプション又は株式に焦点を当てた検討がなされています。

「自社株式オプション型報酬」と「自社株型報酬」の会計処理の基本的な考え方

広義の株式型のインセンティブ報酬において、自社株式オプション(新株予約権)を用いるケース(以下「自社株式オプション型報酬」)と、法的にオプション(新株予約権)を用いることなく自社の株式を交付するケース(以下「自社株型報酬」)の会計処理の基本的な考え方が整理されています。

「自社株式オプション型報酬」
自社株式オプション型報酬の典型例は、ストック・オプションです。
自社株式オプション型報酬の会計処理の最大の特徴は、新株予約権の「付与日」において、当該新株予約権の時価をもって公正な評価単価を確定させ、事後的な時価の変動を原則として反映させない点にあります。

「自社株型報酬」
自社株型報酬の会計処理については、我が国において、包括的な考え方の整理はなされていません。当研究報告では、自社株式オプション型報酬の会計処理と比較する形で、自社株型報酬の会計処理の考え方を整理しています。

「業績連動型報酬」における会計処理上の概念と課題

金銭により交付される一般的な「業績連動型報酬」は、職務執行の対価として費用計上を行うべきであり、基本的には期間に応じた費用計上を行うことが理論的と考えられます。

ストック・オプションにおける業績連動型報酬の取扱い
ストック・オプション会計基準においては、新株予約権の付与時に「公正な評価単価×付与数」という算式により公正な評価額を算定し、費用計上額のベースとします。公正な評価単価は原則として事後的に見直しが行われることはなく、業績の達成又は不達成による付与数の変動は、その失効数を見積もることにより調整されます。

自社株型報酬における業績連動型報酬の取扱い
自社株型報酬においても、契約の時点において自社の株式の交付とサービスの提供が等価で交換されていると考えられるため(ストック・オプション会計基準第49項参照)、自社株型報酬を前提にすると、契約の時点において株式の公正な評価額を測定し、以後の再測定は行わないとするのが適切と考えられ、ストック・オプションと同様に、業績未達による失効数を織り込んだ交付数で調整して会計処理を行うことが適切であると考えられます。

4.インセンティブ報酬に関する会計上の論点と会社法の関係

法務省・法制審議会が2017年(平成29年)4月に立ち上げた会社法制(企業統治等関係)部会で、会社法改正に向けた議論を行っており、取締役の報酬等のうち金銭でないもの(会社法第361条第1項第3号)に関して、当該株式会社の株式を引き受ける者の募集については、募集株式と引換えに金銭の払込みを要しない旨を募集事項として定めることができるものとすること等が検討され、要綱として決定しています。

この点現状では、自社株型報酬について、資本充実の原則との関係から、役員等に金銭債権等を付与し、当該債権を現物出資するスキームによる実務対応が取られていますが、自社株型報酬を利用する企業も増加しており、会社法の改正動向を踏まえて、資本会計上の論点について会計処理の考え方を整理することが必要であるとされています。

5.インセンティブ報酬に関するその他の会計上の論点(各論)

本文及び付録において以下の各論について考察されています。
【本文】
1.費用化の期間
2.費用総額の測定
3.事後的な時価変動の反映の要否
4.逆インセンティブと会計処理の関係
5.種々の発行条件の取扱い
6.株価連動型金銭報酬における取扱い
7.対象者の相違による取扱い
8.親子会社間の制度の取扱い
9.信託を用いるスキームにおける取扱い
10.株式型のインセンティブ報酬における未公開企業の取扱い
11.税効果会計適用上の論点
12.開示上の論点

【付録】(インセンティブ報酬のスキーム別の会計処理上の論点)
1.株式報酬型ストック・オプション
2.権利確定条件付き有償新株予約権
3.事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)
4.初年度発行型パフォーマンス・シェア
5.役員向け株式交付信託
6.業績連動発行型パフォーマンス・シェア(パフォーマンス・シェア・ユニット)
7.株価連動型金銭報酬
8.時価発行新株予約権信託
9.事後交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック・ユニット)

6.参考資料

当研究報告の詳細は、以下をご参照ください。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20190527zix.html

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