1.はじめに
日本公認会計士協会は、2019年2月27日に、「監査基準の改訂に関する意見書」に対応して新設された監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」及び関連する監査基準委員会報告書(以下「本報告書等」)の改正を公表しました。
これは、2018年7月に金融庁(企業会計審議会)より公表された「監査基準の改訂に関する意見書」を踏まえ、監査基準委員会報告書の改正等について検討が行われ、2018年11月に公表された公開草案に寄せられたコメントに対する対応を経て公表されたものです。
公開草案に対する主なコメントの概要及びその対応についても公表されておりますが、公開草案から特に重要な変更は行われていません。
2.本報告書等の概要
新設された、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」は、監査報告書における「監査上の主要な検討事項」(KAM)の報告に関する実務上の指針を提供するものとされています。主な概要は以下の通りです。
「監査上の主要な検討事項」(KAM)の目的と期待される効果
「監査上の主要な検討事項」(以下「KAM」)は、以下のように定義されています。
当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう。監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役等のコミュニケーションを行った事項から選択される
KAMの報告の目的は、実施された監査に関する透明性を高めることにより、監査報告書の情報伝達手段としての価値を向上させることにあります。
KAMの報告により、想定される財務諸表の利用者に対して、当年度の財務諸表監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項を理解するのに役立つ追加的な情報が提供され、監査の透明性を高めることができるとともに、想定される財務諸表の利用者が企業や監査済財務諸表における経営者の重要な判断が含まれる領域を理解するのに役立つことが期待されています。
KAMの決定
監査人は、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、監査を実施する上で監査 人が特に注意を払った事項を決定します。その際、監査人は以下を考慮します。
①特別な検討を必要とするリスクが識別された事項又は重要な虚偽表示リスクが高いと評価された事項
②見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含め、経営者の重要な判断を伴う事項に対する監査人の判断の程度
③当年度に発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響
次に監査人は、上記に従い決定した事項の中から更に、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を「監査上の主要な検討事項」(KAM)として決定します。
KAMの報告
監査人は、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」区分を設け、KAMの一般的な以下の説明文を記載します。
◆監査上の主要な検討事項は、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である。
◆監査上の主要な検討事項は、財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において監査人が対応した事項であり、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。
KAMの代替的利用の禁止
監査人は、除外事項付意見を表明しなければならない状況において、除外事項付意見を表明せず、除外事項に該当する事項を監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分において報告してはならないとされています。
個別の監査上の主要な検討事項の記載内容
以下についてはKAMへの記載を求めています。
①関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該注記事項への参照
②個々の監査上の主要な検討事項の内容
③財務諸表監査において特に重要であるため、当該事項を監査上の主要な検討事項に決定した理由
④当該事項に対する監査上の対応
ただし、連結財務諸表の監査報告書において同一内容のKAMが記載されている場合には、個別財務諸表の監査報告書において記載を省略することができるとされています。
監査役等とのコミュニケーション
監査人は、以下に関して監査役等とコミュニケーションを行わなければならないとされています。
①監査人が、監査上の主要な検討事項と決定した事項
②企業及び監査に関する事実及び状況により、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断した場合はその旨
文書化
監査人は、監査調書に以下を含めなければならないとされています。
①監査人が特に注意を払った事項及びそれがKAMに該当するどうかの監査人の決定の根拠
②監査報告書において報告するKAMがないと監査人が判断した場合、又は報告すべきKAMが除外事項若しくは継続企業の前提に関する重要な不確実性以外にない場合はその根拠
③KAMと決定された事項について監査報告書において報告しないと監査人が判断した場合はその根拠
3.適用時期
本報告書等は、2021年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用することとされています。
ただし、2020年3月31日(米国証券取引委員会に登録している会社においては2019年 12月31日)以後終了する事業年度に係る監査から早期適用することも可能です。
4.参考資料
本報告書等の詳細は、以下をご覧ください。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20190227aei.html