経営研究調査会研究資料第5号「上場会社等における会計不正の動向」の公表について

1.はじめに

平成30年6月26日に日本公認会計士協会(経営研究調査会)より経営研究調査会研究資料第5号「上場会社等における会計不正の動向」が公表されました。

本研究資料は、近年の会計不正の動向を適時にお知らせするため、上場会社及びその関係会社が公表した会計不正を集計し、取りまとめたものです。
経営研究調査会では、このほか、企業等で発生した不正の内容や手口、実施された不正調査手法も研究しており、これまでにも研究報告を作成し、公表しています。

本研究資料は、上場会社及びその関係会社(以下、「上場会社等」という)が公表した会計不正の実態・動向を正確に捉え、かつ、今後も定点観測ができるように、経営研究調査会不正調査専門部会が、上場会社等により公表された会計不正を一定期間集計し、取りまとめたものです。
本研究資料は、監査や不正調査に関与する公認会計士のみならず、公認会計士以外、例えば、企業等が参考にすることも期待されています。

2.本研究資料の作成の前提事項

会計不正の定義

本研究資料では、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類しています。
なお、「粉飾決算」と「資産の流用」はそれぞれ明確に区分できるとは限らないため、本研究資料においては、いずれかに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計しています。

集計方法

本専門部会が、2013年4月から2018年3月にかけて、各証券取引所における適時開示制度等で会計不正に関する公表のあった上場会社等146社を対象として集計し、公表した日を基準として年度別の分類をしています。
なお、誤謬のみを公表した上場会社等は集計の対象としていません。

留意事項

本研究資料において集計した会計不正の多くは、上場会社が自らの判断によって各証券取引所に定める適時開示基準に従って適時開示を行ったものです。
適時開示基準は、投資家の投資判断に重大な影響を及ぼす事実か否かを適時開示の判断基準としているため、公表するに至った会計不正は、投資家の視点から定量(金額)的に又は定性的に重要な会計不正であるといえます。

しかしながら、これは既に発生している会計不正の氷山の一角にすぎず、会計不正の実態を示していない可能性があるため、本研究資料を使用する場合は、その点に留意が必要です。

3.会計不正の動向

本研究資料の概要は以下の通りです。

会計不正の公表会社数

2013年4月から2018年3月にかけて会計不正の発生を公表した上場会社等は146社であり、そのうち2018年3月期においては、30社が会計不正の事実を公表し、そのうち、2018年3月31日現在で24社が調査結果まで公表しています。

会計不正の公表会社数は各期によってばらつきはあるものの、おおむね毎期30社前後で推移しています。なお、この中には同一の会社や同一の会社グループでありながら、複数回にわたり会計不正を公表している上場会社等も存在しています。

会計不正の類型と手口

2013年4月から2018年3 月にかけて会計不正の事実を公表した上場会社等146社の会計不正のうち、不正の内容が判明するものを分類すると、粉飾決算の方が多くなっています。
一般的に、資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になるため、上場企業等が適時開示基準に則って公表する数も、粉飾決算の方が多くなると考えられます。2018年3月期においては、公表された会計不正のうち81.1%が粉飾決算(件数ベース)となっています。

また、会計不正のうち、粉飾決算をより詳細に手口ごとに集計すると、売上の過大計上、循環取引、工事進行基準等、収益関連科目における会計不正の公表が多くなっています。収益関連科目は会社にとって重要な指標の一つであることからこのような傾向にあると考えられます。なお、2018年3月期においては、公表された粉飾決算のうち 40.0%(件数ベース)が収益関連の会計不正となっています。

会計不正の主要な業種内訳

2013年4月から2018年3月にかけて会計不正の事実を公表した上場会社等146社の会計不正のうち、 会計不正が行われた事業が判明しているものを業種別に分類すると、過去5年間において、情報・通信業が20社(構成比14.3%)で最多であり、次いで卸売業と建設業がともに同数の19社(構成比各13.6%)、サービス業の18 社(同12.9%)であり、これら四つの業種が全体の約半数を占めています。

2018年3月末現在、東証上場銘柄全体のうち、情報・通信業に分類される会社は411 社、卸売業に分類される会社は320社、サービス業に分類される会社は424社となっているのに対し、建設業に分類される会社は171社にとどまることから、建設業は、会計不正の公表の割合が多い業種であるといえます。
建設業は、現場責任者による権限が強力であるため、下請け業者からの架空・水増し請求に伴うキックバックが露見しにくく、工事進行基準の採用など会計処理に多くの会計上の見積りが必要であること、会計と税務の基準が異なることから、会計不正の公表が多いのではないかと考えられます。

会計不正の発覚経路

2013年4月から2018年3月にかけて会計不正の事実を公表した上場会社等146社の会計不正のうち、調査報告書等に会計不正の発覚経路が公表されていないケースが、29社と構成比20.7%を占めています。
発覚経路を明らかにすることは、適切な発生原因の分析、有効な再発防止策の構築につながるものであり、積極的に公表することが望まれます。

会計不正の関与者

2013年4月から2018年3 月にかけて会計不正の事実を公表した上場会社等146社の会計不正のうち、不正の主体的関与者が判明するものを職掌上どのような立場にあるものであったかについて分類すると、役員及び管理職が外部共謀又は内部共謀により会計不正を実行するケースが多いことが分かります。

複数の担当者による共謀や、経営者や管理者が不正な目的のために内部統制を無視又は無効ならしめることは、内部統制の固有の限界として知られています。
このケースでは、共謀による内部統制の有効性の低下、または、経営者による内部統制の無効化が行われている可能性があり、不正の発見がより困難な状況にあるといえます。

会計不正の発生場所

2013年4月から2018年3月にかけて会計不正の事実を公表した上場会社等146社の会計不正のうち、発生場所が判明するものを分類すると、会社等の海外展開に伴い、海外子会社において会計不正が発生するケースも一定割合で推移しており、2018年3月期は12件発生しています。

海外子会社で発生した会計不正を地域別に見ると、アジアに所在する海外子会社が圧倒的に多く発生しています。国別に見ると、中国において発生するケースが多く、これは日本企業の進出が多いことが要因であると考えられます。

会計不正の不正調査体制の動向

2013年4月から2018年3月にかけて会計不正の事実を公表した上場会社等146社の会計不正のうち、不正調査体制が判明するものを分類すると、社内のみの人材による調査体制は、資産の流用の調査においては50%の割合で用いられているが、粉飾決算の調査においては26%の割合しか用いられていない一方、外部専門家のみによる調査体制は、資産の流用にお いては22%の割合しか用いられていないが、粉飾決算の調査においては42%の割合で用いられています。

なお、粉飾決算の調査について、公認会計士が調査委員又は調査補助者として調査体制に加わっている割合は、「外部専門家のみ」の調査体制で行う場合は96%に上り、「社内+外部専門家」の調査体制の場合は97%に上っています。

4.参考資料

本研究資料の詳細は、以下をご参照ください。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20180626xvi.html

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