企業会計基準委員会から2017年7月のASAF会議にのれん及び減損に関するペーパーを提出

1.はじめに

平成29年6月12日に、企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、2017年7月に予定されている会計基準アドバイザリー・フォーラム(以下「ASAF」)会議における討議に使用するため、のれん及び減損に関する次の2つのペーパーを提出しました。

1.リサーチ・ペーパー第3号「のれんを巡る財務情報に関するアナリストの見解」
2.アジェンダ・ペーパー『「too little, too late」の問題への対処として考えられるアプローチ』

2.リサーチ・ペーパー

リサーチ・ペーパー第3号「のれんを巡る財務情報に関するアナリストの見解」は、のれん及び減損を巡るアナリストの現在の見解をより深く理解することを目的として、11名の日本のアナリストに対する詳細なインタビューを実施した結果を要約したものです。
ASBJは、リサーチの結果についてASAFメンバーと議論することを意図しています。

調査結果の概要

のれんの事後の会計処理を巡る最近の国際的な議論では、「アナリストは、のれんの償却によって目的適合的な情報が提供されないと考えている」、又は「アナリストはすべて、のれんの償却を無視しており、のれんの償却の影響を除外するために純損益の金額を調整している」といった議論がしばしば聞かれます。

インタビューの結果、アナリストの分析手法は様々であり、キャッシュ・フロー情報に基づく分析並びに会計上の利益及び純資産情報に基づく分析を、アナリストの分析の目的に応じて使い分けていることが確認されました。また、のれんの償却に関するアナリストの見解が様々であることも確認されました。

アナリストの分析方法

□ASBJ スタッフがインタビューしたすべてのアナリストは、キャッシュ・フロー情報に基づく分析を行っていた。キャッシュ・フロー情報の利用の方法は様々であったが、キャッシュ・フローを算出するために、会計上の利益に調整を加える手法を用いている場合には、償却及び減損損失を足し戻していた。

□ただし、アナリストが償却及び減損損失を足し戻していたことは、必ずしも、アナリストにのれんを償却した会計上の利益を分析に用いないとする意図があることを意味するものではなく、すべてのアナリストが、キャッシュ・フロー情報に基づく分析に加えて、会計上の利益及び純資産情報も考慮した複合的な観点からの分析を行っていた。

□会計上の利益及び純資産情報の利用方法はアナリストによって異なっていたが、ASBJ スタッフの所見では、国際的な比較可能性を達成するためにキャッシュ・フロー情報に基づく分析をより重視するアナリストと、株価や金融機関の貸付行動に与える影響を考慮して、会計上の利益及び純資産情報に基づく分析をキャッシュ・フロー情報に基づく分析とともに重視するアナリストに大別された。

のれんの償却に対する意見

□キャッシュ・フロー情報に基づく分析をより重視するアナリストの中には、のれんの当初認識額に対してのれんの価値が下落した場合に、のれんの減損として、投資の失敗に関するシグナルが提供されるべきであることを理由として、のれんの非償却を支持するアナリストもいれば、キャッシュ・フローに影響しないため、のれんの償却と非償却の違いは特段の意味を持たないと考えるアナリストもいた。

□会計上の利益及び純資産情報に基づく分析をキャッシュ・フロー情報に基づく分析とともに重視するアナリストの中には、以下を理由として、のれんの償却を支持するアナリストがいた。
・のれんの価値は永久には持続し得ないこと
・のれんの非償却は安易な企業結合を誘発する可能性があること
・償却後ののれんの帳簿価額をのれんの価値が下回った場合にのれんの減損を認識することによって、減損損失が投資の失敗をより表すこと
・のれんの償却は企業結合による成長とオーガニックな成長との間のイコール・フッティングを達成すること

□一方、国際的な比較可能性を達成するためには、国際的に最も広く使用されているアプローチに統一せざるを得ないため、分析コストの観点からのれんの非償却を支持するアナリストもいた。

□アナリストの一部は、企業結合により将来キャッシュ・フローが増加する期間についての経営者の見積りに関する情報が有用であると考えていた。これらのアナリストは、当該期間に基づいてのれんを償却することにより、企業結合によって増加した収益と経営者の見積りに基づいて算定された償却費とを対応させることにより純損益が算定され、有用な情報をもたらすと考えていた。

のれんの減損に対する意見

□キャッシュ・フロー情報並びに会計上の利益及び純資産情報の利用の方法に関わらず、多くのアナリストが、のれんの減損損失は、彼らが考えるのれんの価値の下落の発生時期よりも遅く認識されると感じていた。彼らは、のれんの減損損失が認識されるよりも前に、のれんの価値の下落を分析に織り込んでいると述べた。

参考資料

リサーチ・ペーパーの詳細は、以下をご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/discussion/2017-0612.html

3.アジェンダ・ペーパー

アジェンダ・ペーパー『「too little, too late」の問題への対処として考えられるアプローチ』は、次のようなASBJの見解及び提案を提示し、ASAFメンバーと議論することを意図しています。

1.償却及び減損モデルを支持
ASBJは、従来より、のれんの減価を償却を通じて各報告期間の純損益に反映させることで、財務諸表利用者に対して企業結合後の企業の財務業績に関する有用な情報を提供することから、償却及び減損モデルを支持しています。

2.選択適用アプローチの検討を提案
本アジェンダ・ペーパーでは、のれんのあるべき事後の会計処理を巡る現在の状況を考慮して、企業に、現行のIAS第36号の減損のみモデル又は償却及び減損モデルのいずれかのうち、その説明責任を果たす上で有用と考えるモデルを、会計方針として選択することを要求する、選択適用アプローチを検討することを提案しています。
ASBJは、選択適用アプローチには、経営者が説明責任を果たす上で有用と考える会計処理モデルを選択することを可能にし、作成者と投資者との間のより効果的なコミュニケーションを可能にするという優位点が認められると考えています。

3.のれんの償却期間の決定方法
ASBJは、のれんの償却を再導入することとした場合、償却期間を決定する方法に関する原則を明確にすることが重要であると考えており、本アジェンダ・ペーパーでは、財務諸表利用者に目的適合性のある情報を提供する観点から、将来の正味キャッシュ・インフローが企業結合により増加すると見込まれる期間に関する経営者の見積りに基づいてのれんを償却する方法を原則とすることを提案しています。

4.参考資料

今回提出されたペーパーの詳細は、以下をご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/asaf/y2017/2017-0706/2017-0612.html

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