「のれん及び減損に関する定量的調査」の公表について

1.はじめに

平成28年10月3日に、リサーチ・ペーパー第2号「のれん及び減損に関する定量的調査」が企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)より公表されました。ここでは、本リサーチ・ペーパーの内容について解説します。

本リサーチ・ペーパーは、国際会計基準審議会(IASB)の依頼を受け、ASBJ及び欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)のスタッフが協力して行った、のれん及び減損に関する定量的な調査の結果を要約したものです。

この定量的調査の目的は、のれん及び減損の金額の推移を説明することによって、各国の会計基準設定主体による、のれんの会計処理に関する技術的及び概念的な議論を促進することにあります。

2.定量的調査の構成

本調査は、2005年から2014年までの期間における米国、欧州、日本及び豪州における4つの主要な株価指数(※)を構成する会社のうち1,069社を調査対象としており、以下のデータを示すものとなっています。

(1)株価指数別ののれんの金額及び1社当たりののれんの金額の推移
(2)純資産に対するのれんの割合及び時価総額に対するのれんの割合の推移
(3)時価総額をのれん、のれん控除後の純資産、未認識の価値に分解した場合の推移
(4)減損と株価指数のポイント又は価格との比較の推移、及び前年末ののれんの金額に対する減損(該当がある場合、償却を含む)損失の割合の推移
(5)2014年における業種別の1社当たりののれん金額、及び純資産に対するのれんの割合

※:「4つの主要な株価指数」とは、以下の通りです。
(a) 米国の S&P 500 株価指数(「米国の株価指数」)
(b) 欧州の S&P Europe 350 株価指数(「欧州の株価指数」)
(c) 日本の日経 225 株価指数(「日本の株価指数」)
(d) 豪州の S&P ASX 200 株価指数(「豪州の株価指数」)

3.主な調査結果

のれん合計額の推移

2005 年から 2014 年にかけて、分析したすべての株価指数において、のれんの合計額と1社当たりののれんの金額は増加した。

2005 年と 2014 年ののれんの合計額の増加割合を比較すると、米国の株価指数で 74%、欧州の株価指数で 43%、日本の株価指数で 209%、豪州の株価指数で 121%となっている。

純資産に対するのれんの割合の推移

米国と欧州の株価指数において、純資産に対するのれんの割合と時価総額に対するのれんの割合について、一貫して高い割合を示していた。

2005 年から 2014 年にかけての純資産に対するのれんの割合の平均は、米国の株価指数で33%、欧州の株価指数で31%と高く、豪州の株価指数においては21%と中間的な水準の数値であった。日本の株価指数における純資産に対するのれんの割合は4%と低い水準で安定していた。

時価総額に対するのれんの割合については、時価総額の変動が大きかったことにより、より大きな変動性を示していた。米国と欧州の株価指数における、時価総額に対するのれんの割合は高い数字を示したが、純資産に対するのれんの割合と比べると、それほど顕著ではなかった。

時価総額の構成要素ごとの推移

時価総額を(1)のれん、(2)のれん控除後の純資産、(3)未認識の価値(すなわち、時価総額とのれんを含む純資産の差)に分解した場合、米国と欧州の株価指数の時価総額が財政状態計算書の総資本の簿価より大きく上回っていた。

株価の変動は、未認識の価値の変動に寄与していた。他の株価指数と比べて、2007 年以降の日本では未認識の価値が非常に少なく、株価の変動は、のれん以外の純資産の変動に寄与していた。

のれんの減損と株価指数の相関

のれんの減損と株価指数の相関を分析した結果、明確な時間差は観察されなかった。

株価指数の価格又はポイントが下落傾向を示したときに、一般に減損は増加していた。しかし、のれんが費用化される時期と、株価の変動時期が同時であったかどうかは、必ずしも明確でなかった。

4.参考資料

本リサーチ・ペーパーの詳細は以下をご覧ください。
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/iasb/discussion/discussion_research/20161003.shtml

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