1.はじめに
平成28年6月14日に、経営研究調査会研究報告第58号「CSR報告書にみるサプライチェーンにおけるCSR課題への取組と開示」(以下、本研究報告)が日本公認会計士協会(経営研究調査会)より公表されました。
「サプライチェーンマネジメント」という用語は、従来、企業の調達活動における原材料や部品に関する物流管理、コスト管理及び品質管理といった観点から多く使用されてきましたが、企業が国境を超えて活発に活動するようになり、激しい企業間競争が繰り広げられる中で、過度なコスト削減が求められることにより、サプライチェーン上では、それに起因する労働・人権や環境に関する数多くの問題が引き起こされてきました。
このような問題の発生に伴い、企業がサプライチェーン上で管理すべき項目として、従来の観点に加え、大気・水質汚染等の「環境的側面」、人権侵害や劣悪な労働環境といった「社会的側面」などが含まれるという考え方が広がってきています。
本研究報告は、サプライチェーンに関する国際的な制度やガイドラインなどの動向を整理するとともに、業種ごとのサプライチェーンにおけるCSR(企業の社会的責任)に関連するリスクを特定し、CSR報告書の開示を通じて日本企業の取組や開示の現状を調査したものです。
2.サプライチェーンにおけるCSR に関する国内外の動向
本研究報告では、「Ⅱ サプライチェーンにおけるCSR に関する国内外の動向」として、世界及び日本におけるサプライチェーンのCSR に関する動向について、様々な側面を切り口として紹介しています。
具体的には、様々な国際機関が発行するCSR 関連規格・ガイドラインにおけるサプライチェーンの取扱いや、原材料調達及び加工生産活動に関するサプライチェーンのCSR課題に対する国際的な動向、欧米における法律化の動向及び日本国内における動向を紹介しています。
3.業種別のリスクと取組・開示
本研究報告では、「Ⅲ 業種別のリスクと取組・開示」として、日本企業においてビジネスのサプライチェーンにおけるCSRに関するリスクとして具体的にどのような問題が存在し、またそれに対してどのような取組を行っているか、CSR報告書における開示を通じて調査した結果が報告されています。
調査対象業種
業種によって異なるサプライチェーンにおけるCSR 課題を整理するため、消費者により近い業種として以下の業種を対象としています。
1.食品
2.電気機器
3.小売
4.アパレル・スポーツ
5.住宅
調査の対象とするCSR課題
調査対象とした5つの業種ごとに、サプライチェーンの源流部(資源の採掘・採取)と中流部(部品製造・組立製造)に分け、それぞれのプロセスで想定されるCSR課題を整理しています。
調査の対象とするCSR課題は、相対的に消費者への影響が大きく、また関心が高いと考えられる以下の項目としています。
1.「労働・人権」
2.「環境」
3.「製品安全」
4.「その他」
4.今後に向けて
本研究報告では、「Ⅳ 今後に向けて」として、今回の調査結果から、今後対応すべき課題、関連する3つの社会動向とその対応を示した上で、企業と公認会計士とに求められることを要約しています。
今後対応すべき課題
今後対応すべき課題としては、日本企業においてサプライチェーンに対する情報開示が全般的に少ないことが指摘されています。企業各社が社会的責任を果たし、サプライチェーンにおけるCSR 課題に関わるリスクマネジメントを適切に行い事業活動を推進していくためには、自社のサプライチェーンにおけるCSR 課題のリスクを把握し、把握されたリスクに対して適切にリスク評価及びリスク対応を行うとともに、適時かつ適切にその内容を開示することが大切であると考えられます。
関連する3つの社会的動向
サプライチェーンに関わるCSR 課題への直接的な取組ではないものの、サプライチェーンと連携することによって、一層その成果を高められる取組として、日本において2015 年6月に適用された「コーポレートガバナンス・コード」、2015 年9月に採択された、「持続可能な開発のための2030 アジェンダ及び持続可能な開発目標とターゲット」、倫理的消費(エシカル消費)の3つの取組が具体例として紹介されています。
5.参考資料
本研究報告の詳細は、以下をご覧ください。
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/20160621web.html