IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」

1.現行の収益認識基準からの改訂理由

現行の収益認識基準であるIAS第18号「収益」は、以下の理由から欠陥があるとされてきました。

①非一貫性及び脆弱性

  • 多くの重要な会計論点に対して限定的なガイダンスしかないことから、収益認識実務に重大な多様性が生じていた。
  • 限定的なガイダンスもその結論の基礎がないことから、複雑な取引への適用が困難である場合があった。

②開示の不十分性

  • 従前の開示は、財務諸表利用者にとって、企業の収益及び収益認識を行う際の判断と見積もりを理解するには不十分だった。

これらの点を改善しより有用な基準として公表されたものが、IFRS第15号です。

2.日本基準との相違点

収益認識の時期及び金額に関して、日本基準と相違する可能性のある主要な点は、以下の通りです。

  • 日本基準で認められる出荷基準は、検収基準への変更又は調整が必要となる可能性がある。

  • 対価の変動要因である値引きやリベート等が実務上、販売費として処理されている場合には、変動対価の期待値または最頻値を見積もり、売上高に加減する処理が必要となる可能性がある。

  • 小売業等でポイントを顧客に付与し、これを引当金計上する実務を行っている場合には、当該引当金額を販売時に売上高より控除する処理が必要となる可能性がある。

  • 日本基準において収益認識に関する開示はそれほど多くないため、新たな開示が求められる可能性がある。

以上に記載した内容は、日本基準との差異として想定される項目の一部にすぎません。

IFRSを適用する場合には、各相違点の金額及び質的重要性に鑑み、従前の会計処理を継続適用する余地があるか否かを十分に検討する必要があります。

3.収益認識の5つのステップ

収益認識を行うためには、企業は以下の5つのステップを適用します。

ステップ1.顧客との契約を識別

契約とは、強制可能な権利及び義務を生じさせる複数の当事者間の合意である。
(IFRS第15号Appendix A)

ステップ2.契約における履行義務を識別

企業は、契約当初において、顧客との契約において約束された財又はサービスを評価する。
そして、顧客へ移転する約束の各々を履行義務として識別しなければならない。(IFRS第15号22項)

ステップ3.取引価格の算定

取引価格とは、約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に、企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額である。
顧客により約束された対価の性質、時期及び金額は、取引価格の見積りに影響を与える。

ステップ4.契約における履行義務へ取引価格を配分

独立販売価格により、取引価格を各履行義務へ配分する。(IFRS第15号73-74項)
独立販売価格とは、企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格である。

なお、単一の履行義務が一時点に顧客へ移転するような契約である場合には、取引価格を履行義務へ配分するプロセスは必要ない。(IFRS第15号75項)

ステップ5.履行義務を充足した時に収益を認識

約束された財又はサービスを顧客へ移転することで履行義務を充足した時(または充足するにつれて)、企業は収益を認識しなければならない。(IFRS第15号31項)

企業は、契約開始時において履行義務が一定期間にわたり充足されるのか、または一時点において充足されるのか決定する必要がある。(IFRS第15号32項)

4.適用開始日

IFRS第15号は、2017年1月1日以後開始する事業年度より適用開始されます。
なお、早期適用が認められています。

また、表示する過去の会計期間に対しては、原則として遡及適用が必要とされています。

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