1.はじめに
平成25年7月2日に、企業会計基準委員会より実務対応報告公開草案第39号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い(案)」が公表されました。
本実務対応報告(公開草案)は、従業員又は従業員持株会(以下「従業員等」)に信託を通じて自社の株式を交付する取引について、当面必要と考えられる実務上の取扱いを明らかにすることを目的として公表されました。
2.当公開草案における範囲
本実務対応報告は、以下の2つの取引を対象としています。
(1) 従業員への福利厚生を目的として、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引
(2) 従業員への福利厚生を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引
3.会計処理
(1)従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理
(A) 総額法の適用
対象となる信託が、以下の①及び②の双方の要件を満たす場合には、企業は期末において総額法(※)を適用し、信託の財産を企業の個別財務諸表に計上します。
(※)ここでの総額法は、信託の資産及び負債を企業の資産及び負債として貸借対照表に計上し、信託の損益を企業の損益として損益計算書に計上することを意味します。
① 委託者が信託の変更をする権限を有している
② 企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない
(B) 自己株式処分差額の認識時点
信託による企業の株式の取得が、企業による自己株式の処分により行われる場合、信託からの対価の払込期日に自己株式の処分を認識します。
(C) 期末における総額法等の会計処理
企業は、期末における総額法等の適用に際して以下の点に留意します。
① 信託に残存する自社の株式を、信託における帳簿価額により株主資本において自己株式として計上
② 信託から従業員持株会に売却された株式に係る売却差損益、信託が保有する株式に対する企業からの配当金及び信託に関する諸費用の純額が、正の値となる場合には負債に、負の値となる場合には資産に、それぞれ適当な科目を用いて計上
③ 信託終了時に企業が信託の資金不足を負担する可能性がある場合には、負債性引当金の計上の要否を判断
④ 自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、株式の種類ごとに算定するが、それらの帳簿価額と通算しない
なお、連結財務諸表においては、上述の個別財務諸表における総額法の会計処理を、連結上そのまま引き継ぐものとします。
(2)受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理
(A) 総額法の適用
上述の(1)の取引と同様の取扱いです。
(B) 自己株式処分差額の認識時点
上述の(1)の取引と同様の取扱いです。
(C) 従業員へのポイントの割当等に関する会計処理
企業は、従業員に割り当てられたポイントに応じた株式数に、信託が自社の株式を取得した時の株価を乗じた金額を基礎として費用及びこれに対応する引当金を計上します。
また、信託から従業員に株式が交付される場合、企業はポイントの割当時に計上した引当金を取り崩します。当該取崩額は、信託が自社の株式を取得したときの株価に交付された株式数を乗じて算定します。
(D) 期末における総額法の会計処理
企業は、期末における総額法の適用に際して以下の点に留意します。
① 信託に残存する自社の株式を、信託における帳簿価額により株主資本において自己株式として計上
② 信託が保有する株式に対する企業からの配当金及び信託に関する諸費用の純額が、正の値となる場合には負債に、負の値となる場合には企業において資産に、それぞれ適当な科目を用いて計上
③ 企業が保有する自己株式と信託が保有する自社の株式の帳簿価額の算定に関する取扱いについては、上述(1) (C) ④と同様の取扱い
なお、連結財務諸表においては、上述の個別財務諸表における総額法の会計処理を、連結上そのまま引き継ぐものとします。
4.適用時期等
本実務対応報告は、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することが提案されています。
また、本実務対応報告の適用初年度の期首より前に締結された信託契約に係る会計処理については、一定の注記を行うことを条件に従来採用していた方法を継続することができることが提案されています。
この公開草案は、以下より入手できます。