1.無形資産とは
(1)IFRSにおける無形資産とは
無形資産とは、以下のすべての要素を満たす、物理的実体のない非貨幣性の資源です。
(A) 識別可能であること
(B) 過去の事象の結果として企業が支配していること
(C) 将来の経済的便益が企業へ流入することが期待されること
以上の要件のいずれかを満たさない支出については、発生時に費用処理します。(但し、のれんを除きます。)
(2)日本基準における無形資産の状況
現在の日本基準では、無形資産に関する包括的な会計基準はありません。
2008年に企業結合会計が改正されるまでは、財務諸表等規則に例示列挙されている無形資産(特許権、借地権、ソフトウェア等)以外の無形資産が認識されるケースは多くはありませんでした。
しかし、IFRSとのコンバージェンスを視野に入れた企業結合会計の改正、及びその適用が開始されて以降は、顧客関連の資産や技術に基づく無形資産を認識するケースがみられるようになりました。
2.無形資産の認識要件
無形資産は、以下のすべてを満たす場合に認識されます。
● 識別可能であること
● 過去の事象の結果として企業が支配していること
● 将来の経済的便益が企業へ流入することが期待されること
● 資産に起因する、期待される将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと
● 資産の取得原価を、信頼性をもって測定できること
これを取得形態別に表すと、以下の通りです。
取得形態 | 無形資産認識 | 取得原価 | 1 | 個別の取得 | する | 購入価格+直接付随費用 | 2 | 企業結合の一部として取得 | する | 公正価値 | 3 | 自己創設による取得(研究局面) | しない | – | 4 | 同上 (開発局面) (6要件(※)は満たさない) |
しない | – | 5 | 同上 (開発局面) (6要件を満たす) |
する | 直接材料費 直接労務費 直接経費 |
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上表の通り、「5 自己創設による取得(開発局面)(6要件を満たす)」場合には、IFRSでは無形資産として認識及び測定を行います。一方、日本基準では費用処理するとされています。この点で、双方の基準は相違します。
(※)6要件とは、以下の事項です。
● 使用または売却できるように無形資産を完成させることの技術上の実行可能性
● 無形資産を完成させ、さらにそれを使用又は売却するという企業の意図
● 無形資産を使用又は売却できる能力
● 無形資産が蓋然性の高い将来の経済的便益を創出する方法
● 無形資産の開発を完成させ、さらにそれを使用又は売却するために必要となる、適切な技術上、財務上及びその他の資源の利用可能性
● 開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力
以上の通り、IFRSにおいても「開発費 = 資産計上」が常に成立するわけではありません。
従って、企業はIFRSの適用に際し、「開発費 ≠ 資産計上」であることを念頭に置いたうえで、開発局面において発生した支出が上述の6要件のすべてを満たすか否か、それはどの時点かを、慎重に判断することが求められると考えられます。
3.無形資産認識後の測定
(1)評価方法
無形資産の取得後の評価については、原価モデルか、又は再評価モデルのいずれかを選択するとされています。
各々のモデルは、以下の通りです。
● 原価モデル : 当初認識後、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除
● 再評価モデル : 当初認識後、再評価日の公正価値から再評価日以降の償却累計額及び減損損失累計額を控除
(2)耐用年数
企業は、無形資産の耐用年数を確定できるか否か判定する必要があります。
その結果、耐用年数を確定できると判断した場合には、当該無形資産は償却を行います。このとき、耐用年数は、当該資産の使用方法や製品のライフサイクル等を考慮して決定します。また、償却方法は、将来の経済的便益の消費パターンを反映する方法によります。
一方、耐用年数を確定できないと判断した場合には、当該無形資産は償却せず、毎期及び減損の兆候があればいつでも減損テストを実施します。