「時価の算定に関する研究資料~非金融商品の時価算定~」の公表について

1.はじめに

平成25年7月9日に、日本公認会計士協会より会計制度委員会研究資料第4号「時価の算定に関する研究資料~非金融商品の時価算定~」が公表されました。

近年、企業の財政状態をより但しく把握する等の目的から、我が国の会計実務においても資産の時価の算定を行うケースが増加しています。このとき、時価の算定には、状況に応じた十分なデータの入手や適切な算定方法の選択が必要とされます。

しかし、非金融商品にはそのような情報の入手には困難を伴う場合も多く、また算定方法の選択には何が適しているのか、判断に迷う場合も少なくありません。

そこで、非金融商品の時価の算定方法を研究する上での一助となるよう、当研究資料が公表されました。
これより、当研究資料は実務上の指針として位置づけられるものではなく、また実務を拘束するものでもないとされています。

2.時価の算定方法の外観

我が国において、時価の算定が必要となる場合のある非金融商品には、例えば減損判定時における固定資産や企業結合で取得した無形資産があります。

(1)時価算定方法

市場価格が算定できない場合、これらの非金融商品に関する時価の算定方法には、一般的に、以下の3つのアプローチがあるとされています。

算定方法 算定方法の内容
1 コスト・アプローチ ● 対象資産そのもののコストに着目するもの
● 同等の効用又は機能を有する代替資産の取得に要するコストを用いるアプローチ
● 例えば再調達原価、複製原価等
2 マーケット・アプローチ ● 対象資産に関する市場評価に着目するもの
● 同一又は類似の資産の市場価格を利用するアプローチ
● 使用する市場取引データの信頼性及び有用性の確保が重要
3 インカム・アプローチ ● 対象資産が生み出す収益(又はキャッシュ・フロー)に着目するもの
● 対象資産が将来もたらすであろうキャッシュ・フローや配当等を現在価値に割り引くことにより算定するアプローチ
● 「予想キャッシュ・フロー」「キャッシュ・フローをもたらす予想期間」「割引率」の3つの要素が決まれば時価算定ができる
● 上記3要素はいずれも見積りを必要とするため、合理的な予測と情報入手の適時性が重要

(2)時価算定の基準日

時価算定は、通常は取引日又は期末日を基準日として行われます。

但し、取引日から期末日までの期間が短期且つその間に重要な変動がない場合には、取引日における時価を期末日の時価として利用することが許容される場合があります。

一方、取引日から期末日の間で一定の時価の変動があると考えられる場合には、期末日の時価を改めて算定することに変えて、当該資産と関連性の高い物価指数の変動率などを利用して、取引日における時価を期末日における時価に修正することも考えられます。

3.非金融資産の時価算定等に関する実務上の論点

(1)有形固定資産―不動産

賃貸等不動産等開示会計基準、固定資産減損会計基準、企業結合会計基準等において、不動産の時価算定が必要となる場合があります。

この場合、対象となる資産の性質により、一般的には活発な市場における取引価格を入手することは困難であると考えられます。そこで我が国の実務では、時価の把握のために不動産鑑定士から不動産鑑定評価書を入手することが多いと思われます。

このとき、不動産の鑑定評価は、依頼目的によって鑑定評価の条件の付され方が異なる場合があります。従って、不動産鑑定評価書を利用する場合には、依頼目的及び付されている条件に留意する必要があります。
当該依頼目的には、例えば売買目的、担保評価目的、訴訟に使用する目的等があり、付されている条件には、例えば土壌汚染やアスベスト等の有害物質の存在の可能性を考慮外とする条件、土地及び建物で構成される不動産について建物が存在しない独立のもの(更地)として評価対象とする条件等があります。

また、重要性の乏しい不動産等に関しては、容易に入手できると考えられる評価額や指標を合理的に調整したものを時価として用いることもできるとされています。
当該評価額には、実勢価格、査定価格、公示価格、都道府県基準値価格、路線価、固定資産税評価額等があります。

(2)有形固定資産―動産

機械装置や車両等の動産については、観察可能な市場価格が存在するケースは限定的です。
但し、時価の算定が必要とされる局面においても、これらの動産は比較的短い期間の耐用年数で減価償却が行われることから、「帳簿価額=時価」とみなして処理されているケースが比較的多いと考えられます。

一方で、当初取得時より市場環境が著しく変化し、明らかに帳簿価額が時価と乖離しその重要性が高いと考えられる場合には、時価の合理的な見積りを検討する必要があります。
この場合、現行実務ではコスト・アプローチを採用して時価の見積りを行うことが多いと考えられます。当該見積りにおいては、新品で取得した場合のコストから、算定対象資産の物理的、機能的、経済的な減価率を加味することになります。

(3)無形資産(仕掛研究開発を除く)

取得とされた企業結合において、他社から資産・負債を受け入れた場合で識別可能な無形資産があるときは、当該無形資産の時価評価が必要となります。

しかし、当該無形資産について「観察可能な市場価格」が存在するケースは極めて限定的です。そこで、多くの無形資産についてはインカム・アプローチを採用し、当該無形資産自体が生み出すキャッシュ・フローを特定し、その割引現在価値を時価として用いられることが一般的です。

なお、インカム・アプローチのうち、「超過収益法」「利益分割法」「利益差分法」等の手法が採用される場合が多いようですが、商標権や特許権などは、第三者に貸与する際の類似のロイヤルティレートを推定し、「ロイヤルティ免除法」を採用するケースが多いようです。

(4)無形固定資産―仕掛研究開発

平成20年に行われた企業結合会計基準等の改正により、企業結合により受け入れた研究開発活動の途中段階の成果について、識別可能である場合には、時価の算定が必要となります。

当該仕掛研究開発については、インカム・アプローチを採用することが一般的です。また、その中でもDCF法又は超過収益法が採られることが多いです。

この研究資料は、以下より入手できます。
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-11-4-2-20130709.pdf

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