公開草案「共同支配事業に対する持分の取得」IFRS第11号の改訂案

1.はじめに

 2012年12月13日に、IASB(国際会計基準審議会)よりIFRS第11号「共同支配の取決め」に対する部分的な改訂案が公表されました。

当該草案は、2013年4月23日まで広く一般からのコメントを受け付けています。また、コメントを踏まえて必要に応じた修正を行い、IFRS第11号に組み込まれる予定です。

 2.提案された改訂のポイント

 提案された改訂の主要ポイントは、以下の2点です。

 1)事業(注1)を構成する共同支配事業(注2)に対する持分を取得した場合、企業は事業結合会計に関するIFRS第3号「企業結合」及びその他の基準を適用し、また関連する情報をこれらの基準に従い開示することが提案されています。

 (注1)「事業」とは

投資家に対して配当、費用低減、又はその他の経済的便益の形式によるリターンを直接提供する目的で経営管理される、統合された1組の活動及び資産をいいます。

 (注2)「共同支配事業」とは

取決めに対する共同支配を有する当事者が、当該取決めに関する資産に対する権利及び負債に対する義務を有している場合の共同支配の取決めをいいます。

ここで、共同支配とは、取決めに対する契約上合意された支配の共有であり、リターンに重要な影響を及ぼす活動に関する意思決定に、支配を共有している当事者の全員一致の合意を必要とする場合に存在します。

2)IFRSの初度適用時において、過去に行った事業を構成する共同支配事業に対する持分の取得については、遡及適用の免除を選択できることが提案されています。

上述の改訂が提案された背景は、特に以下の事項について、現行基準上の会計処理が不明確である点にあります。このため、実務上の会計処理にばらつきが生じており、これを解消する目的で今回の改訂案が提案されました。

  •  シナジーに対して支払われたプレミアムに対する会計処理 (のれんとして認識するのか、公正価値に基づき識別可能資産に配分するのか)
  • 取得関連費用の取扱い (費用計上か、資産計上か)
  • 資産負債の当初認識に関連して発生する繰延税金資産、負債の会計処理 (認識するのか、しないのか)

 なお、上述の改訂案が基準化された場合には、その適用日以降将来に向かって適用することが提案されています。また、早期適用も認められることが提案されています。

3.共同支配事業に対する持分の取得の会計処理について

共同支配事業に関連する持分

 IFRS第11号「共同支配の取決め」において、共同支配事業者は、共同支配事業に関連する持分について以下を認識するとしています。

(a) 自らの資産(共同で保有する資産に対する持分を含む)

(b) 自らの負債(共同で負う負債に対する持分を含む)

(c)   共同支配事業から生じる産出物に対する持分の売却による収入

(d)   共同支配事業から生じる産出物の売却による収入に対する持分

(e)    自らの費用(共同で負う費用に対する持分を含む)

上述の定めはあるものの、事業を構成する活動を行っている共同支配事業に対する持分を獲得した場合の会計処理については、明確な定めがありません。

この点を解決するために、当該状況においては以下の会計処理を行うことが提案されています。

会計処理

 【総論】

事業を構成する活動を行っている共同支配事業に対する持分を獲得した場合、企業は事業結合会計に関するIFRS第3号「企業結合」及びその他の基準を適用し、また関連する情報をこれらの基準に従い開示する。

 【具体的な会計処理について】

  • IFRS第3号又は他の基準で特段の定めがない限り、識別可能な資産及び負債は公正価値により測定する
  •  取得関連費用は、それが発生しサービスを享受した期に費用として認識する

(但し、IAS第32号「金融商品:開示」に基づき認識される負債性又は資本性金融商品の発行に付随する費用は除く)

  •  資産又は負債の当初認識に伴い発生する繰延税金資産、負債は認識する

(但し、のれんの当初認識に伴い発生する繰延税金負債は除く)

  •  識別可能な資産及び引き受けた負債と、支払った対価の差額が存在する場合、当該金額はのれんとして認識する

【上記会計処理を適用するケース、しないケース】

上記会計処理は、以下の双方の状況において適用する

  • 既存の共同支配事業に対する持分の取得
  • 共同支配事業の設立時に取得した持分の取得

(但し、共同支配事業の設立にあたり拠出される事業が存在しない場合を除く)

4.IFRS初度適用時の会計処理について

 IFRSの初度適用時において、過去に実施した事業を構成する活動を行っている共同支配事業に対する持分の取得については、IFRS第3号「企業結合」等、上述3に記載した会計処理を遡及適用しないことを選択できることが提案されています。

 5.設例

 今回公表された公開草案では、以下の設例が記載されています。

 【前提】

  1. 企業Aは、共同支配事業Cに対する40%の持分を300で取得
  2. 取得関連費用は50
  3. 契約上の取決めでは、企業Aは、所有持分割合に応じて共同支配事業に関連する資産に対する権利を有し、負債に対する義務を負う 

<取得日現在の資産負債の公正価値>

  • 有形固定資産         270
  • 無形資産(のれん含む)  125
  • 売掛金              210
  • 棚卸資産            175
  • 退職給付債務         (30)
  • 買掛金             (120)
  • 繰延税金負債         (60)
  • 純資産                     570

【会計処理】

<企業Aの財務諸表上認識されるべき資産及び負債>

「取得日現在の公正価値」×「企業Aの所有持分割合」=「企業AのF/S上認識されるべき額」となります。

  • 有形固定資産       270×40%=  108
  • 無形資産(のれん含む) 125×40%=  50
  • 売掛金           210×40% =    84
  • 棚卸資産          175×40%=    70
  • 退職給付債務        (30)×40%=  (12)
  • 買掛金           (120)×40%=  (48)
  • 繰延税金負債       (60)×40%=  (24)   
  • 純資産                   228    ⇒企業Aの持分

企業Aが認識するのれん

譲渡対価   300 ― 識別可能資産負債に対する企業Aの持分   228 = 72 

企業Aが認識する取得関連費用  50

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