1.はじめに
2012年11月28日に、IASB(国際会計基準審議会)よりIFRS第9号「金融商品」の分類及び測定に対する限定的な改訂案が公表されました。
当該草案は、2013年3月28日まで広く一般からのコメントを受け付けています。また、コメントを踏まえて必要に応じた修正を行い、IFRS第9号に組み込まれる予定です。
2.提案された改訂のポイント
提案された改訂の主要ポイントは、以下の3点です。
- 金融資産の契約上のキャッシュ・フローの特徴について、「金利が変更等される場合であっても、契約上のキャッシュ・フローは元本及び元本残高に対する金利のみからなるといえる状況」を明確化
- 償却原価測定に適格である事業モデルを評価するために、事業活動、及び売却の頻度と性質の双方に関する追加的な適用指針を提供
- 負債性金融商品(貸付金、社債等)に、その他の包括利益を通じて公正価値で測定する区分を新たに導入
上述の改訂が提案された背景は、以下の通りです。
- 狭い範囲での適用上の疑問点を明確化
- 米国会計基準との間における金融商品の分類及び測定に関する主要な差異を解消
- 金融資産の分類及び測定と保険契約負債の会計との間の相互関係を考慮
3.契約上のキャッシュ・フローの特徴
①現行基準について
現行のIFRS第9号は、契約上のキャッシュ・フローの特徴と金融資産の保有目的に関する事業モデルに基づき、金融資産の事後の測定をどのように行うか分類するとしています。
ここで、契約上のキャッシュ・フローの特徴については、契約上の特定の日に生じるキャッシュ・フローが元本及び元本残高に対する利息の支払のみであるか否かが、当該分類を行う上で重要なポイントになります。
②提案される契約上のキャッシュ・フローの特徴について
契約上のキャッシュ・フローとは
当基準における契約上のキャッシュ・フローとは、元本の支払、及び元本残高に対する利息(貨幣の時間的価値、及び信用リスクに対する対価)をいいます。
元本と利息の経済的関係
ここで、元本と利息(貨幣の時間的価値、及び信用リスクに対する対価)の経済的関係は、レバレッジ(単独のオプション、先渡し及びスワップ契約等)や金利の更新(金利が更新される頻度と金利の計算期間が整合しないように金利が更新される場合)により修正されることがあります。
このように修正された経済的関係がある場合、企業は、契約上のキャッシュ・フローが元本と元本残高に対する利息のみを表しているか否か、修正の影響を評価する必要があることを提案しています。
経済的関係の修正の影響
上述の修正の影響の評価方法は、具体的には、修正を含まない元本及び利息のみからなる金融資産のキャッシュ・フロー(『ベンチマーク・キャッシュ・フロー』といいます。)と、評価対象となる金融資産を比較します。この結果、両者の差が“重要でないとは言えない(more than insignificantly)”場合には、評価対象である金融資産の契約上のキャッシュ・フローは、元本及び利息のみからなるものではないと判断することを提案しています。
このように評価された金融資産については、P/Lを通して公正価値評価を行うことになります(“FVTPL”と表記されます。)。すなわち、償却原価評価又はその他の包括利益を通して公正価値評価を行うこと(“FVTOCI”と表記します。)は認められません。
【経済的関係の修正の影響評価(例)】
- 前提
評価対象金融資産は、変動金利(3ヶ月物金利)付きであり、金利は毎月更新される
- 比較に用いられる実際又は仮想金融資産(ベンチマーク)
評価対象金融資産と同一条件、及び、毎月更新される変動金利を除く同一の信用力を有するもの
③分類方法のまとめ
以上の分類方法をまとめると、以下のとおりです。
【金融資産の事後の測定】
a) 金融資産の契約上のC/Fに元本及び利息以外が含まれている場合
→ 純損益を通じて公正価値で評価(FVTPL)
b) 元本と利息の経済的関係が修正され、かつ その修正は「重要でないといえない」程度である
→ 純損益を通じて公正価値で評価(FVTPL)
C) 上記a) b) のどちらにも該当しない場合
→ FVTPL以外(償却原価、FVTOCI)で評価される可能性あり(事業モデル如何による)
4.償却原価測定に適格である事業モデルについて
①現行基準について
現行のIFRS第9号は、契約上のキャッシュ・フローの特徴と金融資産の保有目的に関する事業モデルに基づき、金融資産の事後の測定をどのように行うか分類するとしています。
具体的には、契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有することを目的とする事業モデルである場合は、当該金融資産を償却原価で測定するとされています。
(但し、この場合の契約上のキャッシュ・フローは、元本及び元本残高に対する利息のみである場合に限ります。)
②提案される事業モデルについての適用指針の追加
【事業モデルについて】
金融資産を運用する事業モデルは、事業が管理される方法、及び企業の経営陣によって業績が評価される方法の観察に基づき決定されることを明確にすることが提案されています。
また、金融資産を運用する事業モデルの決定は、事業モデルに関連する全ての客観的証拠を考慮する必要があるとされ、以下の証拠が例示として挙げられています。
a) 業績は企業の経営陣にどのように報告されているか
b) 事業の管理者にどのように報酬が支払われているか
(例えば、管理されている資産の公正価値に基づく報酬など)
c) 過年度における売却の頻度、時期、数量と、そのような売却が何故発生したのか、また、将来における売却活動見込み
【売却が行われる場合の事業モデルについて】
契約上のキャッシュ・フローを回収する目的で保有する負債性資産(貸付金や社債等)を売却することは、契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有することを目的とする事業モデルと整合するのかについて、以下の適用指針が提案されています。
まず、契約上のキャッシュ・フローが回収すると見込まれるか否かは、売却の頻度と売却の理由を考慮しなければならないとされています。
ここで、例えば以下の場合には、売却が行われるとしても、契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有することを目的とする事業モデルであるとされています。
a) 売却が重要であったとしても頻繁ではない、又は頻繁であったとしても、個別に又は合計しても重要ではない場合
b) 金融資産の満期近くで売却が実施され、売却収入は残存する契約上のキャッシュ・フローの回収額に近似する場合
5.負債性金融資産に対するFVTOCI区分の導入
以下に記載する新たに提案された事項は、主として銀行や保険会社等の金融機関に影響があると思われる事項です。
①現行基準について
現行のIFRS第9号は、契約上のキャッシュ・フローの特徴と金融資産の保有目的に関する事業モデルに基づき、金融資産を以下のカテゴリに分類して事後の測定を行うとしています。
a) 以下の双方の条件が満たされる場合、償却原価
- 契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有することを目的とする事業モデルに基づき資産が保有されている
- 契約条件より、元本及び元本残高に対する利息の支払のみであるキャッシュ・フローが特定の日に生じる
b) 上記a)に該当しない場合は、純損益を通じて公正価値で測定(FVTPL)
c) 上記a)、b)に関わらず特定の条件を満たす場合は純損益を通じて公正価値で測定(FVTPL)
d) 上記a)~c)に関わらず株式については特定の状況において、その他の包括利益を通じて公正価値で測定(FVTOCI) (その他の包括利益認識額は、その後純損益へ振替えられない(リサイクルなし)
②提案される負債性金融商品に対するFVTOCI区分の導入
公表された公開草案では、上記①に記載した現行の区分に、追加で以下の区分を導入することが提案されています。
e) 負債性金融商品(貸付金や社債等)について、以下の状況の双方を満たす場合は、その他の包括利益を通じて公正価値で測定
- 契約上のキャッシュ・フローの回収と売却の双方を目的とするビジネスモデルの下で保有されている
- 契約条件より、元本及び元本残高に対する利息の支払のみであるキャッシュ・フローが特定の日に生じる
また、この方法により認識されたその他の包括利益の金額は、当該金融資産の認識が中止されるか、又は他のカテゴリへ分類変更が行われる場合には、純損益へ組替えを行う(リサイクルする)ことが提案されています。