1.はじめに
2011年11月22日に、IASB(国際会計基準審議会)よりIAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」に対する部分的な改訂案が公表されました。
当該草案は、2013年3月22日まで広く一般からのコメントを受け付けています。また、コメントを踏まえて必要に応じた修正を行い、IAS第28号に組み込まれる予定です。
2. 提案された改訂のポイント
提案された改訂の主要ポイントは、以下の2点です。
- 投資先におけるその他の純資産の変動(注)について、投資者は資本に含めて認識
- 持分法の適用を中止する場合、それまで資本に含めて認識していた金額は全て純損益へ振替
(注)その他の純資産の変動とは、投資先の当期純利益、その他の包括利益、及び分配(配当等)以外の純資産の変動をいいます。例えば、投資先による第三者割当増資や第三者からの自己株式取得がこれに該当します。
3.その他の純資産の変動について
IAS第28号で定められている会計処理
IAS第28号において、持分法は以下の会計処理を行うものと定められています。
①当初
投資を原価で認識
②それ以後
投資先の純資産に対する投資者の持分の変動に応じて投資を修正
このうち上述②について、投資先の純損益及びその他の包括利益に対する投資者の持分の変動、ならびに投資先から受け取った分配については、会計処理上の取扱いが定められています。
具体的には、以下の通りです。
- 投資先の純損益に対する投資者の持分は、投資者の純損益に認識
- 投資先のその他の包括利益に対する投資者の持分は、投資者のその他の包括利益に認識
- 投資先から受け取る分配は、当該投資の帳簿価額の減額として認識
しかし、投資先の実施する第三者割当増資や第三者からの自己株式取得等に基づくその他の純資産の変動については、会計処理が明示されていません。このため、実務上の取扱いにバラツキが生じていました。
IAS第28号の改訂案
IASBは、上記の実務上の取扱いにおけるバラツキを解消するために、その他の純資産の変動を資本に含めて認識することを提案しています。
この提案を行う理由は、以下の通りです。
①その他の純資産の変動をもたらす資本取引は、投資先の業績を反映しない。このため、仮に投資者の純損益に含めて認識すると、投資先の業績が適切に反映されない。
②投資先による資本取引を投資者の純損益に含めて認識することは、持分法を一行連結と捉える考え方と整合しない。
③IAS第28号では、投資先の純損益に対する投資者の持分は、投資者の純損益に含めて認識することを求めている。同様に、投資先のその他の包括利益に対する投資者の持分は、投資者のその他の包括利益に含めて認識することを要求している。このことから、純損益でもその他の包括利益でもない投資先の取引から生じるその他の純資産の変動は、投資先の資本取引であり、従って、投資者の資本に認識することが適切である。
【設例:第三者割当増資】
前提条件
- 投資者は投資先に対して30%の持分を保有し、且つ重要な影響力を有している
- 投資先は第三者割当増資を実施し、対価500の現金を受領した
- 係る増資に伴い、投資者の持分は25%へ減少したが、重要な影響力は保持している
- 増資前後の投資先の純資産は、各々1,000及び1,500である
第三者割当増資前の投資者持分
増資前の投資先純資産1,000 × 増資前の持分30% = 300
第三者割当増資後の投資者の持分
増資後の投資先純資産(投資前1,000+500)× 増資後の持分 25% =375
すなわち、第三者割当増資が行われた結果、投資者の持分割合は希薄化により減少 (30→25%) します。一方、株式の発行に伴い純資産総額は1,000から500増加して1,500になることから、当該増加に見合う持分額は増加します。
その結果、投資者の持分は当初の300から375まで75増加します。
これを仕訳で表すと、以下の通りです。
(借方)投資 75 (貸方)資本 75
4.持分法の適用中止について
IAS第28号で定められている会計処理
IAS第28号において、持分の処分を行った結果、持分法の適用を中止する場合の会計処理については、以下の定めがあります。
①持分の一部処分を行った結果、金融資産である残余持分が存在する場合
当該投資は公正価値にて評価する。
また、以下の差額は純損益に認識する。
(a)残存持分の公正価値及び持分の一部処分による収入
(b)持分法を中止した日現在の投資の帳簿価額
②その他の包括利益について
当該投資に関連して認識していた金額の全てを、仮に投資先が関連する資産又は負債を直接処分した場合に要求されるのと同一の基礎で会計処理を行う。
上述のとおり、投資者が当該投資に関連して認識していた投資の残存持分、及びその他の包括利益については規定があります。
一方で、上記「3.その他の純資産の変動について」において提案されている資本計上額についての取扱いについては、規定がありません。
IAS第28号の改訂案
これに対応するため、持分法の適用を中止した場合に、当該投資に関連して資本に含めて認識していた金額の累計は、全て純損益へ振替えることが提案されています。
この提案が行われた背景は、投資者が投資先に対する重要な影響力を喪失しているにも関わらず、当該投資に関連する資本の累積金額が投資者の資本に含められているならば、投資先に対して重要な影響力を喪失した事実を適切に表さないとの考えによります。
これより、重要な影響力を喪失し持分法の適用を中止する場合は、投資者の資本に含めて認識されていた累積金額の全てを、純資産へ振替えることが提案されています。
5.その他の事項
上記の他に、以下の事項に関する改訂が提案されています。
- 所有持分の変動
IAS第28号では、所有持分が減少した場合の会計処理として、その他の包括利益についてのみ規定があります。
この点につき、今回公表された公開草案では、資本に含めて認識していた金額に関する会計処理の提案が行われています。具体的には、持分法の適用が中止になるまでは、当該金額の純損益への振替は不可として提案が行われています。
- 発行日及び経過措置
今回公表された提案が基準として確定する時期は未定です。
但し、基準として確定したのち適用が行われる際は、遡及適用を行うこと、及び早期適用は認められることが提案されています。