平成24年5月17日に、企業会計基準委員会より「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表されました。これは、財務報告を改善する観点及び国際的な動向を踏まえ、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法、退職給付債務及び勤務費用の計算方法並びに開示の拡充を中心に改正されたものです。
主な改正点
1.未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(以下「未認識項目」)の処理
(1)貸借対照表上での取扱い
<改正前>
未認識項目は貸借対照表に計上しません。退職給付債務に未認識項目を加減した額から年金資産の額を控除した額を、負債又は資産として計上します。
<改正後>
未認識項目を貸借対照表に計上します(税効果を調整した上で、純資産の部における「その他の包括利益累計額」に計上)。積立状況を示す額として、退職給付債務から年金資産の額を控除した額を、そのまま負債又は資産として計上します。
(2)損益計算書及び包括利益計算書上での取扱い
- 未認識項目の費用処理方法については改正前と変更はなく、平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に費用処理します。
- 未認識項目のうち当期に費用処理されない部分については、その他の包括利益に含めて計上します。
- 未認識項目のうち当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行います。
なお、上記(1)、(2)の取扱いについては、連結財務諸表で先行実施され、個別財務諸表については当面の間適用されません。ただし、連結財務諸表を作成する会社については、個別財務諸表において未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の貸借対照表における取扱いが連結財務諸表と異なる旨を注記する必要があります。
2.退職給付債務及び勤務費用の計算方法の見直し
(1)退職給付見込額の期間帰属方法の見直し
<改正前>
原則として、期間定額基準。(一定の場合、給与基準、支給倍率基準、又はポイント基準が認められる)
<改正後>
期間定額基準又は給付算定式基準。
(注)期間定額基準とは、退職給付見込額について全勤務期間で除した金額を各期の発生額とする方法です。給付算定式基準とは、退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積もった額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法です。
(2)割引率の基礎となる期間
<改正前>
原則として、割引率の基礎となる期間は、退職給付の見込支払日までの平均期間です。実務上は、従業員の平均残存勤務期間に近似した年数も認められます。
<改正後>
割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければなりません。例としては、退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法があげられます。
(3)予想昇給率の見直し
<改正前>
退職給付の変動要因には「確実に見込まれる」昇給等が含まれます。
<改正後>
退職給付の変動要因には「予想される」昇給等が含まれます。
3.開示の拡充
本改正により、退職給付債務や年金資産の増減の内訳など、国際的な会計基準で採用されているものを中心に開示項目を拡充しています。
4.複数事業主制度の取扱いの見直し
<改正前>
複数事業主制度のうち、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないケースは、要拠出額を持って費用処理されますが、複数事業主間において類似した退職給付制度を有している場合は、合理的に計算することができないケースにあたらないとされていました。
<改正後>
複数事業主間で類似した退職給付制度を有している場合であっても、一律に合理的に計算できないケースにあたらないものとはみなさず、制度の内容を勘案して判断することとされています。
5.長期期待運用収益率の考え方の明確化
本改正により、長期期待運用収益率の算定は、退職給付の支払いに充てられるまでの期間を考慮して設定することが明らかにされました。なお、これは従来の考え方を改めるものではなく取扱いの明確化にすぎないため、会計方針の変更には該当しません。
6.名称等の変更
以下のとおり名称が変更されました。
<改正前> <改正後>
退職給付引当金→ 退職給付に係る負債
前払年金費用→ 退職給付に係る資産
過去勤務債務 → 過去勤務費用
期待運用収益率→ 長期期待運用収益率
なお、個別財務諸表においては、当面の間この取扱いの改正を適用せず、改正前の会計基準等の名称を使用します。
適用時期等
1.下記2を除く全て
適用時期
平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されます。早期適用として、平成25年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することができます。
適用方法
過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しません。適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、純資産の部における退職給付に係る調整累計額(その他の包括利益累計額)に加減します。
2.退職給付債務及び勤務費用の計算方法の見直し並びに複数事業主制度の取扱いの見直し等(前掲「主な改正点」の2.並びに4.)
適用時期
平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されます。なお、当該期首からの適用が実務上困難な場合には、所定の注記を条件に、平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することも認められます。早期適用として、平成25年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することができます。
適用方法
過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しません。適用に伴って生じる会計方針の影響額については、期首の利益剰余金に加減します。