顧客との契約における収益認識(再公開草案)

はじめに

2011年11月14日に、IASB(国際会計基準審議会)より顧客との契約における収益認識の再公開草案が公表されました。

公表された再公開草案の概要

(1)再公開草案が公表された経緯

収益認識に関する公開草案は2010年6月に公表されましたが、これに対する多数のコメントを受けて、様々な論点に対する見直しが行われました。

この結果、当初の公開草案より変更を行った部分については、再度広く一般からのコメントを受け付ける必要があるとの判断に基づき、今回の再公開草案として公表されています。

(2)2010年6月公表の公開草案より変更がない点

企業が収益認識を行う際に、以下の(a)~(e)のステップを経て行うことについては、今回公表された再公開草案においても踏襲されています。

(a) 顧客との契約を識別する

(b) 契約における別個の履行義務を識別する

(c) 取引価格を算定する

(d) 当該取引価格をそれぞれの履行義務に配分する

(e) 企業が各々の履行義務を果たした時点において収益を認識する

(3)2010年6月公表の公開草案より変更された点

上記(a)~(e)の各ステップ及びその他に関する以下の点において、主として変更が行われています。

① 契約の結合と変更

 【契約の結合】

以下のⅰ)~)の指標に1つでも該当がある場合、企業は、同時又はほぼ同時期に同一顧客(その関連会社含む)と締結される複数の契約を一体と捉え、会計処理を行う必要があります。

 i)       契約が、単一の商業的な目的を有するまとまりとして交渉されている

ii)     ある契約において支払われる対価の金額は、他の契約の金額、又は財又はサービスの提供に依存している

iii)    契約で定められている財又はサービスは、単一の履行義務である

【契約の変更】

1つの契約(受注)に基づき顧客と取引を行う際、取引価格や提供する財又はサービス等が途中で変更されることがあります。この場合は、契約の変更として取扱います。このとき行うべき会計処理は、以下のとおりです。

i)       顧客へ未提供の財又はサービスが、既に提供済みの財又はサービスより区別できる場合

⇒顧客から受領した金額のうち売上未計上の金額と、顧客より今後支払われる残金を、顧客へ未提供の財又はサービスに配分する  

ii)     顧客へ未提供の財又はサービスと既に提供済みの財又はサービスとの区別が判然としないものの、顧客に対する財又はサービスの一部は充足したもの

⇒契約の修正が、当初の契約に含まれていたかのように取扱い、その結果、既に認識済みの売上を修正する

② 財又はサービスの識別

以下のいずれかに該当する場合には、財又はサービスは別個の履行義務として識別されます。

i)       企業は通常、財又はサービスを別個に販売している

ii)     顧客は、財又はサービスを単独で、又は他の資源と合わせることにより便益を得ることができる

③ 回収可能性

売上高は、企業が顧客へ請求できる金額により計上します。また、当該金額に対する回収不能見込み額については、売上高に対する控除項目として表示します。

④ 貨幣の時間価値

売上債権の回収が、財又はサービスの販売後、長期間にわたる場合があります。この場合、その契約価額に重要な財務要素が含まれる場合には、財又はサービスの取引価格に貨幣の時間価値を反映する必要があります。

当該取扱いで言う長期間にわたる取引とは、財又はサービスの販売から債権の全額を回収するまでの期間が1年超の取引であるとされています。

⑤ 金額の変動

値引、リベート、返金等により、これらを含む最終的な契約価格が変動する場合があります。このように、将来において収益額の変動が想定される場合、財又はサービスの対価として最終的に顧客へ請求できる正味金額の見積りを行ったうえで、当該金額により収益を認識すべきとされています。

なお、当該見積りを行う際は、以下のいずれかの方法により行うとしています。

i)       確率加重平均金額の合計

類似の契約が多数ある場合に適すると思われる方法

ii)     最も起こりそうな金額

起こり得る結果は2つに1つの場合に適すると思われる方法

⑥ 進行基準の適用対象

継続的に顧客へ財又はサービスが提供される場合において、以下の2つの指標のうち少なくとも1つを満たす場合には、収益認識方法として進行基準を適用するとしています。

i)       企業の財又はサービスの提供が、顧客が資産として支配する資産を創造又は強化している

ii)     企業の財又はサービスの提供が、他の用途を持つ資産を創造せず、且つ、少なくとも以下の条件の1つを満たす

  • 企業が財又はサービスを提供するにつれて、顧客は便益を受領又は消費する
  • 他の企業が残りの財又はサービスの提供を求められた場合に、その時点までに企業が完了させた業務は、再度他の企業が提供する必要はない
  • 企業は、その時点までに完了させた財又はサービスの提供に対して支払を受ける権利を有している

⑦ 収益認識時点

上記⑥とは異なり、一時点において顧客へ財又はサービスが提供される場合、顧客へ財又はサービスを提供する義務(履行義務)を果たした時点で収益認識するとされています。

当該義務を果たした時点とは、以下の時点を指します。

i)       顧客が資産の使用を指図し、且つ実質的に資産から全ての便益を享受できる

ii)     顧客は、他者が当該資産の使用を指図し、且つ便益を享受することを阻止できる

なお、当該義務を果たした時点については、上記2つの指標の他に、以下も考慮する必要があるとされています。

iii)    企業は、資産に対する支払いを受ける権利を有する

iv)    顧客は、資産に対する法的所有権を有する

v)     企業は、資産の物理的所有を顧客へ移転している

vi)    顧客は、資産の所有に伴う重要なリスクと経済価値を有する

vii)   顧客は、資産を受領している

⑧ 赤字契約

企業は戦略的に、又はやむを得ず、1つの包括受注案件において、部分的には赤字の財又はサービスの提供を含む受注契約の締結を行う場合があります。

当該赤字部分については、その財又はサービスの提供を完了するまでの期間が1年超である場合には、企業は負債及び見合いの費用を認識する必要があるとしています。

⑨ 製品保証

製品保証の取扱いは、以下の2通りです。

i)       顧客が製品保証サービスを別途購入できる場合

製品保証サービスを、販売取引とは別個の財又はサービスの提供義務(履行義務)として取扱う。

ii)     製品保証サービスが既に財又はサービスに含まれているため、顧客は別途購入しない場合

企業は、製品保証サービス提供義務の発生可能性を見積り、IAS第37号「負債」に従い負債計上を行う。

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