「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」の公表

監査対応の概要

 平成23年3月30日に、日本公認会計士協会から「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」が公表されました。

企業側の会計処理及び監査人側の監査対応に関して様々な困難が予想されるため、今回の災害に関する監査対応の基本的な考え方を示したうえで、以下について留意事項がとりまとめられています。

  • 災害損失の範囲
  • 災害発生時(平成23年3月11日)以後に決算日を迎える企業
  • 災害発生時(平成23年3月11日)より前に決算日を迎えた企業
  • 内部統制監査
  • 中間財務諸表及び四半期財務諸表関係
  • 決算スケジュールの延長

基本的な考え方

 基本的な考え方として、特に会計上の見積りの合理性については、今回の災害発生の状況から判断して、会計基準が想定する事実確認や見積りの合理性要件と比較し、ある程度の概算による会計処理も合理的な見積の範囲内にあると判断できる場合もあると考えられるとしています。

また、監査上の留意点として、データ収集や会計上の見積りが困難なケースについては、データ収集や会計上の見積りの制約に関する重要な事項が注記において適切に開示されていることを確かめる必要があるとしています。

 災害損失の範囲

平成7年3月27日に日本公認会計士協会から公表された「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」において会計上の災害損失の範囲が例示されています。今回の災害損失の基本的な考え方についても同様の理解が適当とされ、その後の状況変化も踏まえて、災害損失の範囲を以下の通り例示しています。 

  1. 固定資産(建物等の有形固定資産、ソフトウェア等の無形固定資産、投資不動産等)や棚卸資産(商品等)の滅失損失
  2. 災害により損壊した資産の点検費、撤去費用等
  3. 災害資産の原状回復に要する費用、価値の減少を防止するための費用等
  4. 災害による工場・店舗等の移転費用等
  5. 災害による操業・営業休止期間中の固定費
  6. 被災した代理店、特約店等の取引先に対する見舞金、復旧支援費用(債権の免除損を含む)
  7. 被災した従業員、役員等に対する見舞金、ホテルの宿泊代等の復旧支援費用

平成23年3月11日以後に決算日を迎える企業

 会計処理

例示 P/L B/S 注記
 (1) 固定資産や棚卸資産の滅失損失    特別損失
  (2)損壊した資産の撤去費用等 決算日までに実施済   撤去費用等を特別損失に計上 未払金   –
 決算日後に実施予定  引当金繰入額を特別損失に計上  引当金(計上要件を満たす場合)  –
   (3)災害資産の原状回復費用等  資本的支出  –  固定資産  –
 収益的支出  特別損失  – – 
 引当金繰入額  特別損失  引当金(計上要件を満たす場合)  –
  (4)工場・店舗等の移転費用等  決算日までに発生  特別損失  –  –
 決算日までに未実施  –  – 移転方針が決定しており金額的に重要性が高い場合は注記 
 (5)操業・営業休止期間中の固定費  原価性が認められない場合  特別損失  –  –
 (6) 被災した取引先に対する見舞金、復旧支援費用  特別損失  –  –
 (7) 被災した従業員、役員等に対する見舞金、宿泊代等の復旧支援費用  特別損失  –  –

関連する会計・監査事象 

<繰延税金資産の回収可能性の判断>

今回の災害発生が企業の将来収益力にどのような影響を及ぼすか、特に災害発生による主要な計画要因の将来変化の可能性に留意し、翌期以降の事業計画又は利益計画の見直しの要否について検討することとなります。その際、「明らかに合理性を欠く業績予測であると認められる場合には、適宜その修正を行った上で課税所得を見積もる必要があることに留意する」(監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」)ことが求められます。 

<取引先の財政状態の悪化等/保有有価証券の価値の下落>

今回の災害により、売掛金等の営業債権(敷金や差入保証金を含む)の貸倒れ等のリスクが高まる場合もあるため、債権の評価に関して留意する必要があります。また、時価を把握することが極めて困難と認められる株式(非上場株式)について、可能な限り災害発生の影響を反映させた実質価額を把握し、減損の要否について検討することが考えられます。データ収集や会計上の見積りが困難なケースは、上述の監査対応の基本的な考え方に基づき、適切に対応するものとしています。 

<固定資産の減損判定>

災害により物理的に損壊を受けた場合、1.で述べた会計処理が考えられます。それ以外の固定資産について将来キャッシュ・フローに災害の影響が生じる場合、従来の減損判定を見直す必要性について検討することになると考えられます。経済的残存使用年数への影響も考慮する必要があります。 

<その他>

その他の留意事項の例として、継続企業の前提に係る疑義の発生なども考えられます。

 平成23年3月11日より前に決算日を迎えた企業 

今回の災害に係る影響は開示後発事象として取り扱うことになると考えられます。債権、棚卸資産、固定資産及び繰延税金資産などの評価に当たっては、決算日時点の状況を基礎として見積もり、災害に係る影響(災害に起因する信用リスクの増大、将来キャッシュ・フローの悪化、将来の課税所得の見積りの下振れリスク等)が重要な場合、開示後発事象として注記することが原則的な取扱いになると考えられます。

 内部統制監査

 今回被災した拠点が経営者の評価範囲内にあり、災害により経営者の評価手続きが実施できない場合、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」において、やむを得ない事情による評価範囲の制約の例として挙げられており、この取扱いに従った対応をとることになると考えられます。

なお、当該事業拠点が滅失してしまった場合は、期末日現在評価対象が存在しないため、評価対象外になると考えられます。 

中間財務諸表及び四半期財務諸表関係

今回の災害が中間会計期間又は四半期会計期間の末日の前後に発生した場合は、ここで説明された内容に準じて対応することとなります。

決算スケジュールの延長 

平成23年3月13日に東北地方太平洋沖地震を特定非常災害に指定する政令が公布・施行されたことにより、本来の提出期限までに金融商品取引法に係る諸提出書類の提出がなかった場合であっても、本年6月末までに提出すればよいこととされました。

会社法については、法務省が定時株主総会の開催時期についての説明資料を公表しています。

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