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実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」等の公表について

Posted At 2021年2月12日 @ 11:52 AM In 企業会計 | Comments Disabled

1.はじめに

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」)は、2021年1月28日に実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」を公表しました。

2019年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号。以下「改正法」)により「会社法」(平成 17 年法律第86号)第202条の2において、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められました。

これを受けてASBJでは、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする場合における会計処理及び開示について審議を行い、実務対応報告第 41 号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」)が公表されました。

また本実務対応報告に関連し、以下の会計基準等が改正されています。
◆企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」
◆企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」

本実務対応報告等につきましては、2020年9月11日に公開草案を公表し、広くコメント募集を行った後、ASBJに寄せられたコメントを検討し、公開草案の修正を行った上で公表されています。

2.実務対応報告第41号の概要

範囲

本実務対応報告は、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする取引に適用されます。

なお、いわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引については適用されません。

「事前交付型」と「事後交付型」

対象となる取引には、「事前交付型」と「事後交付型」の2種類が想定されています。

「事前交付型」とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限が付された株式の発行等が行われ、権利確定条件が達成された場合には譲渡制限が解除されるが、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する(以下、当該無償取得を「没収」)取引と定義されています。

「事後交付型」とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引と定義されています。

会計処理

本実務対応報告の適用対象としている取締役の報酬等として株式を無償交付する取引については、自社の株式を報酬として用いる点で、自社の株式オプションを報酬として用いるストック・オプションと類似性があり、インセンティブ効果を期待して自社の株式又は株式オプションが付与される点で同様であるため、費用の認識や測定については、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」)の定めに準じた会計処理が規定されています。

一方で、株式が交付されるタイミングが異なる点や、事前交付型において、株式の交付の後に株式を無償で取得する点については、取引の形態ごとに異なる取扱いを定めています。

◆事前交付型の会計処理

新株の発行により行う場合 自己株式の処分により行う場合
割当日における取扱い 当初の割当日において新株を発行し発行済株式総数が増加するが、その時点では資本を増加させる財産等の増加は生じていないことから、割当日には払込資本を増加させない(実務対応報告案第39項) 当初の割当日において自己株式を処分するため、その時点で自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額する(実務対応報告案第12項、第43項から第45項)
対象勤務期間における取扱い ストック・オプション会計基準と同様に、企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上する(実務対応報告第5項、第39項)
各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とする(実務対応報告第6項)
また、当該処理により年度通算で費用が計上される場合は、対応する金額を資本金または資本準備金に計上し、年度通算で過年度に計上した費用を戻し入れる場合はその他資本剰余金から減額する(実務対応報告第9項)
四半期会計期間においては、計上する損益に対応する金額はその他資本剰余金の計上または減額として処理し、年度の財務諸表においては、上記の処理に置き換える(実務対応報告第10項)
ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額をその他資本剰余金として計上する(実務対応報告案第13項)
没収時における取扱い 没収により、企業が無償で株式を取得したときは、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第14項の定めによる自己株式の無償取得として、自己株式の数のみの増加として処理する(実務対応報告案第11項) 没収により、企業が無償で株式を取得したときは、自己株式等会計基準適用指針第14項の定めによらず、当初の割当日において減額した自己株式の帳簿価額のうち、没収により取得した自己株式に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額する(実務対応報告案第14項及び第46項)

◆事後交付型の会計処理

事後交付型における報酬費用の相手勘定として、「株式引受権」が新たに設定されています。
新株予約権と同様に、純資産の部の株主資本以外の項目として計上されます。

新株の発行により行う場合 自己株式の処分により行う場合
割当日における取扱い ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、新株の発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上する(実務対応報告案第15項) ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、自己株式の処分が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上する(実務対応報告案第17項)
対象勤務期間における取扱い 権利確定条件を達成した後の割当日に、株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替える(実務対応報告案第16項) 権利確定条件を達成した後の割当日に、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額として、その他資本剰余金を増減させる(実務対応報告案第18項)

開示

注記事項に関しては、ストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針における注記事項を基礎とし、ストック・オプションと事前交付型、事後交付型とのプロセスの違いを考慮して、以下の注記事項が定められています。

(1) 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定株式数が存在したものに限る。)
(2) 事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定株式数が存在したものに限る。ただし、権利確定後の未発行株式数を除く。)
(3) 付与日における公正な評価単価の見積方法
(4) 権利確定数の見積方法
(5) 条件変更の状況
当該注記事項の具体的な内容や記載方法等については、ストック・オプション適用指針の定めに準じて注記を行うこととされています。

また、1株当たり情報の算定に当たっての取扱いに関しては以下のように定められています。
◆事後交付型におけるすべての権利確定条件を達成した場合に株式が交付されることとなる契約は、企業会計基準第2号「1 株当たり当期純利益に関する会計基準」第 9 項の「潜在株式」として取り扱い、潜在株式調整後 1 株当たり当期純利益の算定において、ストック・オプションと同様に取り扱う。
◆株式引受権の金額は 1 株当たり純資産の算定上、企業会計基準適用指針第 4 号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」第 35 項の期末の純資産額の算定にあたっては、貸借対照表の純資産の部の合計額から控除する。

3.適用時期

本実務対応報告等は、改正法の施行日である 2021年3月1日以後に生じた取引から適用するとされています。

4.参考資料

本実務対応報告等の詳細は、以下をご参照ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2021/2021-0128.html [1]


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