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JICPA「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項」の公表について

Posted At 2020年6月13日 @ 5:49 AM In 企業会計 | Comments Disabled

1.はじめに

日本公認会計士協会(JICPA)は、新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(以下「監査上の留意事項」)を順次公表・周知を行っています。
参考:https://jicpa.or.jp/news/information/announcement_kansensho.html [1]

今回は、2020年3月から5月にかけて公表された監査上の留意事項(その1)~(その5)について解説します。

2.(その1):新型コロナウイルス感染拡大防止対策の環境下において監査人が留意すべき事項(2020年3月18日公表)

財務諸表監査の実施における監査人の総括的な目的は、不正か誤謬かを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得ることにより、財務諸表が、すべての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関して、監査人が意見を表明できるようにすることにあります。

新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の影響下においても、監査人は、感染拡大のリスクに留意しながら、職業的専門家としての判断を行使し、被監査会社の協力を得て、十分かつ適切な監査証拠を入手できるように対応することが望まれます。

1.監査手続に係る留意事項

新型コロナウイルスの感染拡大防止対策の環境下において、十分かつ適切な監査証拠を入手するために、監査手続に関し留意すべき事項として以下の項目を列挙しています。
(1)実地棚卸の立会
(2)残高確認
(3)監査証拠の信頼性
(4)グループ監査

2.既に決算日を迎えた企業の監査対応

既に決算日を迎えた企業では、事業活動の縮小や停止、将来キャッシュ・フローの悪化、将来の課税所得の見積りの下振れの可能性等の影響について、監査対象事業年度において会計処理を行うか、又は翌事業年度の会計処理として取り扱うか、慎重な検討が必要となる場合が想定されます。
この場合、決算日現在において、どのような影響がどの程度生じているかを見積もり、その程度を勘案して、当事業年度の会計処理に反映させるかどうかを検討することに留意する必要があります。

なお、翌事業年度に会計処理を行う場合であっても、その影響の程度に応じて当事業年度の開示後発事象に関わる注記事項として取り扱うかどうか検討することに留意する必要があります(監査基準委員会報告書560「後発事象」及び監査・保証実務委員会報告第76 号「後発事象に関する監査上の取扱い」)。

3.内部統制監査

上場会社に関しては、内部統制監査への影響も検討する必要があります。
内部統制監査に関しては、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策により事業活動に甚大な影響を及ぼしている地域が、経営者の評価範囲内にある拠点である場合、経営者の評価手続が実施できない場合は、災害等、やむを得ない事情による評価範囲の制約に該当し、この取扱いに従った対応をとることになると考えられます(「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」Ⅱ3(6)評価範囲の制約)。

この場合、経営者は当該事実の及ぼす影響を把握した上で、当該範囲を除外して、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明することができ、監査人は、当該内部統制報告書の記載内容及びやむを得ない事情により内部統制の評価ができなかった範囲の影響を判断し、内部統制報告書に対して内部統制監査意見を表明することになります。

3.(その2):不確実性の高い環境下における監査上の留意事項(2020年4月10日公表)

新型コロナウイルス感染症の拡大が被監査会社の現在の事業活動に及ぼす影響は極めて甚大なものであり、拡大の収束が見えない環境下においては、今後の事業活動に及ぼす影響は予想することも困難な状況が生じているケースもあるものと考えられます。
そのため、企業が会計上の見積り項目に関連して財務諸表を作成することにも困難が生じ、監査人の監査手続の選択や実施にも、極めて困難な状況が予想されます。

監査基準では、「監査人は、将来の帰結が予測し得ない事象又は状況について、財務諸表に与える当該事象又は状況の影響が複合的かつ多岐にわたる場合には、重要な監査手続を実施できなかった場合に準じて意見の表明ができるか否かを慎重に判断しなければならない。」とされています(第四報告基準五4)。しかし、「将来の帰結が予測し得ない事象や状況が生じ、しかも財務諸表に与える当該事象の影響が複合的で多岐にわたる場合(それらが継続企業の前提に関わるようなときもある)に、入手した監査証拠の範囲では意見の表明ができないとの判断を下すことについて、基本的には、そのような判断は慎重になされるべきことを理解しなければならない」とも記されています(「監査基準の改訂について」(2002年1月25日企業会計審議会)。

まさに、現在の新型コロナウイルス感染症拡大の影響下においては、財務諸表の利用者等の意思決定に資するという公共の利益を勘案して、各監査人は監査意見の形成局面において職業的専門家としての慎重な判断が求められることに留意しなければなりません。
ここでは具体的に、会計上の見積りの監査及び継続企業の前提に関して、監査上留意すべき事項が取りまとめられています。

4.(その3):有報提出期限の延長等の対応について(2020年4月20日公表)

新型コロナウイルス感染拡大防止対策の環境下における対応として、2020年4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する有価証券報告書をはじめとする開示書類について、一律に2020年9月末まで提出期限が延長されました。
また、会社法関係書類の提示株主総会における報告も例年とは異なるスケジュールが可能となりました。これらに関する公表資料は以下の通りです。

◆2020年4月14日公表
金融庁「 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について 」
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200414.html [2]

◆2020年4月15日公表
新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議共同声明 「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200415/20200415.html [3]

◆2020年4月20日
日本公認会計士協会 会長声明「「 新型コロナウイルス 感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」 からの声明について」
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200415gee.html [4]

5.(その4):新型コロナウイルス感染拡大防止対策の環境下における会計処理及び監査の留意事項(2020年4月22日公表)

営業を停止した場合の固定費等の会計処理

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために政府や地方自治体による要請や声明等により、店舗の営業を停止又はイベントの開催を中止した際の費用にかかる会計処理について、当該営業停止期間中に発生した固定費や、当該イベントの開催の準備及び中止のために直接要した費用は、臨時性があると判断される場合が多いと考えられます。
したがって、その場合は損益計算書の特別損失の要件を満たし得るものとして取り扱うことができると考えられます。

また、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために政府や地方自治体による要請や声明等により、工場が操業を停止又は縮小したときの異常な操業度の低下による原価への影響についても、臨時性があると判断される場合が多いと考えられます。
したがって、その場合も同様に、損益計算書の特別損失の要件を満たし得るものとして取り扱うことができると考えられます。

ただし、いずれの場合も、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための政府や地方自治体による要請や声明等に関連せず、経常的な経営活動に伴う業績不振等による損失が特別損失に計上されることがないよう留意が必要です。
なお、特別損失に計上している場合には、原則として、当該損失を示す適当な名称を付した科目をもって掲記しなければなりません(財務諸表等規則第95条の3)。

銀行等金融機関の自己査定及び償却・引当に関する留意事項

銀行等金融機関の貸出金の自己査定及び償却・引当について、貸倒見積高の算定は、会計上の見積りの例示に該当し、経営者の判断によって行われるものであり、監査人は、経営者によって行われた会計上の見積りの合理性及び関連する注記事項の妥当性を評価することが求められます(監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」第17項及び第18項)。

新型コロナウイルス感染症の影響については、企業会計基準委員会から2020年4月10日付けで議事概要が公表されており、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになり、企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられるということが示されています。
監査人は、銀行等金融機関の貸倒引当金の見積りの監査において、上記の企業会計基準委員会の議事概要を踏まえた、監査上の留意事項(その2)を参考として対応することに留意し、また金融機関の採用する貸倒引当金の計上に関する会計方針が、財務諸表利用者の理解に資するように、適正かつ十分に記載されているか検討しなければなりません。

なお、「新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた事業者の資金繰り支援につい
て」(麻生財務大臣兼金融担当大臣談話(2020 年3月6日))において、「返済猶予等の条件変更した場合の債権の区分など、個別の資産査定を含め、民間金融機関の判断を尊重する方針とし、積極的に事業者支援に取り組んで頂くよう要請する」というメッセージが発出されています。
また、2020 年月20 日に閣議決定された緊急経済対策では「民間金融機関による迅速かつ柔軟な既往債務の条件変更や新規融資の実施等を要請し、検査・監督の最重点事項として取組状況を報告徴求で確認し、更なる取組を促す。また、返済猶予等の条件変更を行った際の債権の区分など、個別の資産査定における民間金融機関の判断を尊重し、金融検査においてその適切性を否定しないものとする。」とされています。

監査人は、銀行等金融機関の資産査定基準及び銀行法施行規則等におけるリスク管理債権(特に、貸出条件緩和債権)の判定基準について、同大臣談話及び同緊急経済対策を理解した上で、適切に運用されていることを確かめることが必要となることに留意する必要があります。

6.(その5):監査意見及び経営者確認書に関する留意点(2020年5月8日公表)

除外事項付意見(監査範囲の制約)に関する留意点

監査上の留意事項(その1)を踏まえても、十分かつ適切な監査証拠の入手に至らなかった場合も想定されることから、除外事項付意見(監査範囲の制約)を表明する際の留意点について取りまとめられています。

経営者確認書に関する留意事項

新型コロナウイルス感染症は世界全体で蔓延しており財務報告に与える影響も多岐に及ぶため、こうした状況下、新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響とそれらの影響を財務報告においてどのように取り扱ったかについて、経営者に対し書面による陳述を要請することが考えられます。

ここでは、監査人の判断により、監査基準委員会報告書580「経営者確認書」やこれに関する監査基準委員会報告書の例示に新型コロナウイルス感染症よる影響に関して記載を追加する場合の具体例や監査報告書日に署名又は記名捺印のある経営者確認書の原本を入手できない場合の留意点についてとりまとめられています。

7.参考資料

本内容の詳細は、以下をご覧ください。
監査上の留意事項(その1):https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200318fcb.html [5]
監査上の留意事項(その2):https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200410ijj.html [6]
監査上の留意事項(その3):https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200415aja.html [7]
監査上の留意事項(その4):https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200422djf.html [8]
監査上の留意事項(その5):https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200508ija.html [9]


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[5] https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200318fcb.html: https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200318fcb.html

[6] https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200410ijj.html: https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200410ijj.html

[7] https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200415aja.html: https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200415aja.html

[8] https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200422djf.html: https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200422djf.html

[9] https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200508ija.html: https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200508ija.html

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