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IT委員会研究報告第54号「公認会計士業務におけるオープンデータの利用可能性」 の公表について

Posted At 2019年11月15日 @ 11:50 AM In 企業会計 | Comments Disabled

1.はじめに

日本公認会計士協会(IT委員会)は、2019年8月1日にIT委員会研究報告第54号「公認会計士業務におけるオープンデータの利用可能性」(以下、「本研究報告」)を公表しました。

公認会計士は、監査業務において、企業の内部で生成された会計データや、企業の外部で生成された株価、地価といったデータなど、様々なデータの分析を行っています。一方で、昨今のIT技術の進展等により、利用可能なデータの範囲が加速度的に広がっていることを受けて、様々な業界において、こうしたデータを利活用する取組が進められています。

本研究報告では、政府が推進しているオープンデータを対象として、その概要を紹介するとともに、実際に政府機関等が公表している企業に関連するオープンデータを取り上げ、その公認会計士業務における利用可能性を検討しています。

2.本研究報告の概要

本研究報告の概要は以下のとおりです。
今回は、Ⅳ 公認会計士業務におけるオープンデータの利用可能性(P15-38)を中心に解説します。

オープンデータの定義

オープンデータとは、「データの二次利用者が法的な制限なくデータを利用でき、機械判読可能なデータ形式で入手のための費用がゼロのものか、データ授受のための取引コストを超えないデータ」と定義されています。

オープンデータは、官民を問わず提供されているデータを指しますが、民間が無償で提供するデータと比べて、政府や地方公共団体、独立行政法人等の公的機関が保有し提供している公共データの方がデータ入手の安定性が高いと考えられます。

政府が公開しているオープンデータには、様々なデータが存在します。本研究報告では、企業に関連するオープンデータについて、その利用可能性を検討します。

3.公認会計士業務におけるオープンデータの利用可能性

1.国税庁 社会保障・税番号制度 法人番号公表サイト

https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/ [1]
国税庁は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成25年法律第27号)に基づいて、法人に対して法人番号を指定し、対象の法人へ指定した法人番号を通知、その後、①法人番号、②商号又は名称、③本店又は主たる事務所の所在地の法人基本3情報を法人番号公表サイトで公開しています。

法人番号は、届出手続等を要することなく、国税庁長官が法人番号を1法人に対し1番号のみ指定します。法人番号の対象となるのは、①会社法その他の法令の規定により設立の登記をした法人(設立登記法人)、②国の機関、③地方公共団体、④これら以外の法人又は人格のない社団等であって、法人税・消費税の申告納税義務又は給与等に係る所得税の源泉徴収義務を有することになる団体とされています。

【監査業務での利用可能性】

確認手続での法人番号の利用
監査業務において、確認手続は重要な実証手続の一つですが、監査繁忙期には、回収作業が集中して作業負荷が重くなる場合が多く、また確認状の発送先(確認回答者)においても同名又は類似の企業名がある場合には、確認対象企業を特定する作業が必要になります。

確認手続において、法人番号を使うことで以下の効果が得られると考えられます。
◆確認状に記載される全ての企業名に法人番号を付けることで、監査事務所及び確認状発送先が企業を特定する作業の正確性と効率性を高めることが可能となる。
◆確認状の返信用封筒に確認依頼元の法人番号のQRコードを暗号化して付けることで、セキュリティを確保したまま、返信用封筒を開封せずに仕分けすることが可能となる。
◆残高確認が電子化された場合には、確認状発送先、監査先企業、確認額などが全てデータ化されるため、法人番号の利用により業務効率化の効果を高めることが可能となる。

法人格のない会社の発見
法人番号は設立登記された法人に対して付与されているため、企業が取引している会社の法人番号の有無を調査することによってその会社が設立登記されているかどうかを調べることが可能です。

設立登記されていない会社は、言い換えれば法人格を有していない会社であり、不正目的で利用されている可能性があります。監査先企業やアドバイザリー業務提供先企業の取引先リストを入手し、そのリストに記載されている会社とその法人番号を紐づけて、設立登記がされていない会社があれば、それを発見することが可能となります。

2.法人インフォメーション

https://hojin-info.go.jp/hojin/TopPage [2]
法人インフォメーション(略称「法人インフォ」)は、政府が保有している法人情報を検索、閲覧、取得できるウェブサイトです。法人インフォは、2016年5月に閣議決定された世界最先端IT国家創造宣言において、法人番号を併記した調達、免許、許認可などの政府が保有する法人情報をオープンデータ化する取組に基づき、2017年1月から運用開始されています。

法人インフォには約400万社の法人が登録されており、2019年3月から新たに、厚生労働省の職場情報総合サイト「しょくばらぼ」及び金融庁のEDINETと連携し、法人の勤務実態に関する情報と財務情報が追加されました。

【監査業務での利用可能性】

監査先企業の取引先の実態調査
国税庁の法人番号と同じく、法人番号を利用した取引先の実在性を確認するために法人インフォを活用することが考えられます。また限定的ですが、取引先の政府の調達案件の受注状況や補助金取得、表彰の有無などの活動実態を調査することが可能となるため、その取引先の監査先企業との関係と活動実態に矛盾がないかどうかを検討することが可能です。

例えば、監査先企業の得意先リストに記載されている会社を法人インフォで調査したところ、その得意先の事業が監査先企業と無関係の事業だった場合、その得意先への売上について詳細な手続を行うといった使い方が考えられます。

3.政府統計の総合窓口 e-Stat

https://www.e-stat.go.jp/ [3]
政府統計の総合窓口(e-Stat)は、各府省庁が公開している政府統計のポータルサイトです。e-Statは、従来、各府省庁がそれぞれ独自のウェブサイトで公開していた統計データを1か所に集約してワンストップサービスを実現したものであり、2008年から本格運用が開始されています。

e-Statに集められている統計データは、統計法(平成19年法律第53号)に基づいて作成された公的統計であるため、行政での利用に限らず、社会全体で利用される情報基盤です。
企業活動に関するデータとしては、企業の貸借対照表、損益計算書の財務情報や従業員数などの企業概況のデータを業種別規模別に集計した「法人企業統計調査」、企業の景況感を示す「法人企業景気予測調査」、設備投資の先行指標である「機械受注統計調査」など多様なデータが登録されています。

【監査業務での利用可能性】

時系列データを用いた業種ごとの財務分析
時系列データを用いた業種ごとの財務分析と、監査先企業又はアドバイザリー業務提供先企業の財務分析を比較することで、両者の乖離状況を把握することが可能です。

例えば、「法人企業統計調査」には、年次調査と四半期調査があり、公表のタイミングは年次調査が翌年度の9月、四半期調査は四半期末日後約65日です。したがって、年次調査は業界における企業の財務的な特徴を把握するために利用することが可能です。

監査先企業の外部環境の変化の把握
監査先企業の外部環境の変化は、企業収益の予測に役立てられることが考えられます。

例えば、設備投資関連の経済指標である「建築着工統計調査」は、国土交通省が毎月作成し、当該月の翌月に公表しています。建築着工統計調査のうち、民間の非居住者に関する建築着工床面積は、半年から1年程度の設備投資の先行指標となると言われています。監査先企業が工場やオフィスビルの新規建設に関連する業界に属している場合には、建築着工統計調査の分析は、当該監査先企業の短期的な企業収益の予測に役立てることができると考えられます。

ただし、選択する統計データと監査先企業の収益との関連性については、過去の推移の比較による相関関係の有無の調査などを行い、どの統計データを使用するかについて慎重に判断することが必要です。また、統計データが有する特徴(振れの大きさやその要因など)についても理解している必要があります。

経済指標の分析による景気変動の予測
統計データは、エコノミストが景気の見通しを行うための基礎データとして使われています。そのため、企業が属する業界全体の景気変動の予測を行うために統計データを利用することが考えられます。

ただし、経済指標を読むためには、経済指標そのものの意味や作成方法を理解し、また特徴を把握することが重要です。経済指標の特徴としては、景気に対する先行指標、一致指標、遅行指標があり、景気変動を予測するためには先行指標を選択する必要があります。
また、月次の振れが大きい指標の場合には移動平均を使うことや、季節性のある指標については季節調整値を用いることなどが必要です。このように、経済指標の分析による景気変動を予測するためには、統計リテラシーを高めていくことが求められます。

4.国立社会保障・人口問題研究所

http://www.ipss.go.jp/index.asp [4]
国立社会保障・人口問題研究所は、国の社会保障制度の中・長期計画並びに各種施策立案の基礎資料として、人口と世帯に関する将来推計を全国と地域単位で実施し、「日本の将来推計人口」、「日本の地域別将来推計人口並びに「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」、「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)」として公表しています。
推計人口は、5年ごとに実施される国勢調査を基礎として作成されており、報告書についてはPDF、報告書に記載されたデータはスプレッドシートで提供されています。

【監査業務での利用可能性】

監査業務では、地域の人口動向が収益に大きな影響を与える業種(小売業や地域金融機関など)の外部環境を評価するために、地域別の将来推計人口の推移を利用することが考えられます。

5.EDINET

EDINET(Electronic Disclosure for Investors’NETwork:金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)は、有価証券報告書等の開示書類の提出から公衆縦覧等までを電子化した電子開示システムです。

EDINETで公衆縦覧に供されている電子開示書類の多くは、XBRLで提供されており、誰でも無償で入手することが可能です。2019年3月17日からは、EDINETに提出された電子開示書類のXBRLデータをAPIで取得することが可能になりました。

【監査業務での利用可能性】

EDINETには、上場企業等の電子開示書類が5年分蓄積されています。蓄積されている電子開示書類は、XBRLデータでダウンロードすることが可能であり、監査業務では企業の財務分析をXBRLデータで行うことが考えられます。

XBRLデータは、XBRLタクソノミによって開示科目が標準化されて財務数値等の値と紐付けられており、XBRLタクソノミの開示科目を操作するだけで、自動的に値の配置を変更することが可能となるため、XBRLツールを使うことでスプレッドシートに比べて柔軟なデータ加工が可能となります。有価証券報告書等は、報告書全体がXBRLで作成されているため、財務情報だけではなく大株主の状況や事業等のリスクなどの開示項目もXBRLタクソノミが設定されており、そのXBRLタクソノミの設定レベルでの比較分析が可能です。

また、人工知能(AI)を使って開示内容の特徴を捉えてルール化することを考えた場合、対象とする開示内容にXBRLタクソノミが設定されていれば、人工知能 (AI)の学習データを特定することができ、学習データをクレンジングする作業負担が大幅に軽減されると考えられます。

4.参考資料

本研究報告の詳細は、以下をご覧ください。
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20190801cgf.html [5]


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