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企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表について

Posted At 2018年6月14日 @ 12:40 PM In 企業会計 | Comments Disabled

1.はじめに

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、平成30年3月30日に、収益認識に関する会計基準及びその適用指針(以下、合わせて「本会計基準等」)を公表しました。

我が国においては、企業会計原則の損益計算書原則に、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされているものの、収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで開発されていませんでした。

一方、国際会計基準審議会(以下、「IASB」)及び米国財務会計基準審議会(以下、「FASB」)は、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic 606)を公表しており、IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から、Topic 606は平成29年(2017年)12月15日より後に開始する事業年度から適用されています。

これらの状況を踏まえ、ASBJは、平成27年3月に我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し、その後平成28年2月に、適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するため、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(以下「意見募集文書」という。)を公表。
その後、意見募集文書に寄せられた意見等を踏まえ審議を行い、平成29年7月20日に公開草案を公表し、当該公開草案に対して寄せられた意見等について検討を重ねた上で、今回の本会計基準等の公表に至っています。

2.本会計基準等の概要

本会計基準等の概要は以下のとおりです。

開発にあたっての基本的な方針(会計基準第97項から第101項)

意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ、ASBJでは、収益認識に関する会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、IFRS第15号と整合性を図る便益の1 つである財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、会計基準を定めることとしています。
また、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを追加することとしています。

基本となる原則(会計基準第16項から第18項)

本会計基準等の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益の認識を行うこととされています。

基本となる原則に従って収益を認識するために、次の 5 つのステップを適用します。
ステップ 1:顧客との契約を識別する。
ステップ 2:契約における履行義務を識別する。
ステップ 3:取引価格を算定する。
ステップ 4:契約における履行義務に取引価格を配分する。
ステップ 5:履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。

具体的には以下の通りです。

ステップ1:契約の識別
次のすべての要件を満たす顧客との契約を識別します。
① 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
② 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
③ 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
④ 契約に経済的実質があること
⑤ 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと。当該対価を回収する可能性の評価にあたっては、対価の支払期限到来時における顧客が支払う意思と能力を考慮する。

ステップ2:履行義務の識別
契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①別個の財またはサービス又は②一連の別個の財またはサービスのいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別します。

ステップ3&4:収益の額の算定
(1)取引価格に基づく収益の額の算定(ステップ3&4))
 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、取引価格のうち、当該履行義務に配分した額について収益を認識します。
(2)取引価格の算定(ステップ3)
 取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額であり、第三者のために回収する額を含まないとされています。取引価格を算定する際には、次の①から④のすべての影響を考慮します。
①変動対価  ②契約における重要な金融要素 ③現金以外の対価 
④顧客に支払われる対価
(3) 履行義務への取引価格の配分(ステップ4)
 それぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分は、財又はサービスの独立販売価格の比率に基づき、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行うとされています。

ステップ5:履行義務の充足による収益の認識
企業は約束した財又はサービス(資産)を顧客に移転することによって、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識します。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時、又は獲得するにつれてとされています。

「一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する」場合は、以下の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合とされています。
(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
(3) 次の要件のいずれも満たすこと
① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

上記の(1)から(3)の要件のいずれも満たさない場合は、「一時点で充足される履行義務」として、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識します。

特定の状況又は取引における取扱い(適用指針第34項から第89項)

本会計基準の適用指針では、次の(1)から(11)の特定の状況又は取引について適用される指針を定めています。
(1) 財又はサービスに対する保証(ステップ2)
(2) 本人と代理人の区分(ステップ2)
(3) 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ステップ2)
(4) 顧客により行使されない権利(非行使部分)(ステップ5)
(5) 返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払(ステップ5)
(6) ライセンスの供与(ステップ2及び5)
(7) 買戻契約(ステップ5)
(8) 委託販売契約(ステップ5)
(9) 請求済未出荷契約(ステップ5)
(10) 顧客による検収(ステップ5)
(11) 返品権付きの販売(ステップ3)

重要性等に関する代替的な取扱い(適用指針第92項から第104項)

本会計基準の適用指針では、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、次の個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めています。

(1) 契約変更(ステップ1)
□重要性が乏しい場合の取扱い
(2) 履行義務の識別(ステップ2)
□顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い
□出荷及び配送活動に関する会計処理の選択
(3) 一定の期間にわたり充足される履行義務(ステップ5)
□期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア
□船舶による運送サービス
(4) 一時点で充足される履行義務(ステップ5)
□出荷基準等の取扱い
(5) 履行義務の充足に係る進捗度(ステップ5)
□契約の初期段階における原価回収基準の取扱い
(6) 履行義務への取引価格の配分(ステップ4)
□重要性が乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用
(7) 契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分(ステップ1、2及び4)
□契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分
□工事契約及び受注制作のソフトウェアの収益認識の単位
(8) その他の個別事項
□有償支給取引(ステップ5)

なお、本会計基準によると、主に次の現行の日本基準又は日本基準における実務の取扱いが認められないこととなるため注意が必要です。
■顧客に付与するポイントについての引当金処理(ステップ2)
■返品調整引当金の計上(ステップ3)
■割賦販売における割賦基準に基づく収益計上(ステップ5)

また、今後、本会計基準等の実務への適用を検討する過程で、本会計基準等における定めが明確であるものの、これに従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況が市場関係者により識別され、その旨がASBJに提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否をASBJにおいて判断することとしています。
具体的な手順等については、今後公表される予定です。

開示

□表示(会計基準第79項、第88項)
本会計基準等では、企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客が対価を支払う場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示することとしていますが、早期適用時の経過措置として、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつそれぞれの残高を注記しないことができるとされています。

また、本会計基準等に従って認識される収益の表示科目については、現在、表示科目として一般的に用いられている売上高は、他の関連する法令等においても広く用いられているものであり、仮にその名称を変更する場合には影響が広範に及ぶこと等から、注記事項と合わせて本会計基準等が適用される時(平成33 年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む。)に検討することとしています。
なお、本会計基準等を早期適用する場合には、我が国の実務において現在用いられている科目を継続して用いることができるものとしています(会計基準第 155 項)。

□注記事項(会計基準第80項)
本会計基準等では、顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記することとしています。

なお、会計基準を早期適用する段階では、各国の早期適用の事例及び我が国のIFRS第15号の準備状況に関する情報が限定的であり、IFRS第15号の注記事項の有用性とコストの評価を十分に行うことができないため、必要低限の定めを除き、基本的に注記事項は定めないこととし、会計基準が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む)に、注記事項の定めを検討することとしています(会計基準第156 項)。

3.適用時期等

本会計基準等は、平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用します。

早期適用

また早期適用として、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが可能です。

なお早期適用については、追加的に、平成30年12月31日に終了する連結会計年度及び事業年度から平成31年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することが可能です。

経過措置

本会計基準等では、IFRS第15号及びTopic 606を参考として、適用初年度の経過措置を定めています。また、IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表で適用している企業(又はその連結子会社)に対しては、IFRS第15号又は Topic606における経過措置に従うことが可能です。

4.参考資料

本会計基準等の詳細は、以下をご覧ください。

なお本会計基準等と同時に公表された『企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」の設例』は、本会計基準等の骨子である5つのステップや論点となりうるシチュエーションを論点別に30の設例にまとめたものです。
本会計基準やその適用指針を理解する上で非常に有用なものとなっていますので、是非一読することをお勧めします。

https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2018/2018-0330.html [1]


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