「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」報告書の公表について

1.はじめに

平成28年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」提言では、会計監査に関する情報の株主等への提供の充実について、会計監査の透明性を向上させるためには、企業側からの情報提供に加え、監査法人等が積極的にその運営状況や個別の会計監査等について情報提供していくべきであるとされました。

これを受け、「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」(座長 八田進二 青山学院大学名誉教授)において昨年11月から計3回にわたり議論が行われ、平成31年1月22日に金融庁より、「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」報告書として、「会計監査に関する情報提供の充実について ― 通常とは異なる監査意見等に係る対応を中心として ―」(以下、「本報告書」)が公表されました。

2.公表の背景

平成28年3月に公表された提言の考え方やこれらの会計監査をめぐる国際的な動向を踏まえ、我が国においても、「監査報告書の透明化」の取組みとして、平成30年7月に監査基準が改訂され、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の記載等が求められることになりました。これにより、監査意見やその根拠とは別に、監査人が当年度の監査の過程で着目した会計監査上のリスクに関する情報の記載が求められることになります。

このように、監査人による個々の会計監査に関する説明・情報提供へのニーズが高まる中、特に、限定付適正意見、意見不表明又は不適正意見といった「通常とは異なる監査意見等」が表明された場合や監査人の交代理由など、監査人の判断の背景や根拠となった事情が財務諸表利用者の意思決定に対してより重大な影響を与え得る事象や財務諸表利用者の関心が高い事象については、監査人からの説明・情報提供が一層重要となります。

本報告書では、こうした説明・情報提供の充実の要請に適切に応えることにより、会計監査の品質向上や信頼性確保のための取り組みとして、特に、通常とは異なる監査意見等についての説明・情報提供の在り方に関し、会社法を含む関係法令や監査基準等を踏まえつつ、検討が行われています。

3.本報告書の概要

本報告書の概要は以下のとおりです。

通常とは異なる監査意見等についての説明・情報提供

現行の制度においても、無限定適正意見以外の通常とは異なる監査報告書等については、「意見の根拠」区分において自らの判断についての説明を行うこととされ、また会社法上も一定の場合に株主総会での意見陳述の機会が確保されています(会社法第398条)。
しかし現状では、監査人による説明の場面が極めて限定されているとともに、必ずしも活用されておらず、財務諸表利用者のニーズに十分応えていないのではないかとの指摘がありました。

本報告書では、監査報告書の「意見の根拠」区分への記載は、通常とは異なる監査意見を表明する根拠について、十分かつ適切な説明を行うことが求められています。
また、監査人における会計監査に対する説明・情報提供については、監査報告書によることを基本としながらも、株主総会での意見陳述の機会やその他適切な説明の手段を活用し、追加的な説明を行うことが求められています。

また、併せてこれら財務諸表利用者に対して必要な説明・情報提供を行うことは、監査人の守秘義務違反を問われない「正当な理由」に該当するとしながらも、今後は、この「正当な理由」の範囲についての考え方を示す等、実施に際し適切な方策が検討されることを求めています。

監査人の交代に関する説明・情報提供

現行の制度においては、「臨時報告書」により開示される監査人の交代の理由に関して、概ね半数以上が「任期満了」と記載されており、実質的な内容が記載されていない例が多いことが指摘されています。

本報告書では、監査人の交代理由及びこれに対する監査人の意見は、財務諸表利用者にとって、監査上の懸念事項の有無や監査品質に影響する事象の有無を把握する上で重要な情報であるため、企業及び監査人は、臨時報告書において、実質的な内容を記載することが必要であると指摘されています。

本来、監査人の交代に関して臨時報告書により開示を行うのは企業ですが、監査人にも、交代の理由・経緯に関し、財務諸表利用者に対する十分な説明・情報提供を行うことが求められています。この点に関しては、今後、臨時報告書等における開示の充実の状況を注視しつつ、監査人が主体的に交代理由を説明・情報提供するための環境整備を一層進めていく必要があるとされています。

4.参考資料

本報告書の詳細は、以下をご覧ください。
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20190122.html

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