企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表について

1.はじめに

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)では、平成27年12月に企業会計基準適用指針第26 号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」を公表し、その後、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針のうち当該適用指針に含まれないものについて、当委員会に移管すべく審議が行われています。

このうち、繰延税金資産の回収可能性に関する定め以外の税効果会計に関する定めについて、基本的にその内容を踏襲した上で、必要と考えられる見直しを行うこととし、主として開示に関する審議が重ねられ、平成30年2月16日に、以下の企業会計基準及び企業会計基準適用指針(以下合わせて「本会計基準等」)が公表されました。

◆企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(以下「税効果会計基準一部改正」)
◆企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」)
◆改正企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」)
◆企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」(以下「中間税効果適用指針」)

2.会計処理の見直しを行った主な取扱い

本会計基準等において、日本公認会計士協会から公表されている税効果会計に関する実務指針(会計に関する部分)を見直した主な箇所は以下の通りです。

個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(税効果適用指針第8項(2))

従来の取扱いでは、個別財務諸表における子会社株式又は関連会社株式(以下合わせて「子会社株式等」)に係る将来加算一時差異について、一律、繰延税金負債を計上することとされています。

税効果適用指針においては、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社又は関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上する取扱いに見直しています。

(分類 1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(回収可能性適用指針第18項)

回収可能性適用指針第18項では、「(分類 1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。」と「原則として、」を追加しています。

これは、例えば、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低いときに当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することが適切であると考えられることを明確にするものです。

3.開示

税効果会計基準一部改正においては、税効果会計基準及び同注解のうち開示(表示及び注記事項)に関する事項を改正しています。

表示(税効果会計基準一部改正第2項)

従来の取扱いでは、繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づいて、繰延税金資産については流動資産又は投資その他の資産として、繰延税金負債については流動負債又は固定負債として表示しなければならないとされていました。

税効果会計基準一部改正においては、繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示することとされました。

注記事項

回収可能性適用指針の公開草案(平成27年5月に公表)において寄せられたコメントに加えて、財務諸表利用者が税効果会計に関連する注記事項を利用する目的やその分析内容、実際に利用している情報を検討した上で現状において不足している情報を識別し、次の注記事項を追加しています。

(1)評価性引当額の内訳に関する情報(税効果会計基準一部改正第4項)

① 評価性引当額の内訳に関する数値情報
財務諸表利用者による税負担率の予測及び繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価に資するように、評価性引当額の内訳に関する数値情報として、繰延税金資産の発生原因別の主な内訳(以下「発生原因別の注記」)として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、これまで発生原因別の注記に示されていた評価性引当額の合計額を、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載する。

② 評価性引当額の内訳に関する定性的な情報
財務諸表利用者が評価性引当額の内容を理解し、税負担率に影響が生じている原因を分析することに資するように、評価性引当額に関する定性的な情報として、評価性引当額(合計額)に重要な変動が生じている場合、当該変動の主な内容を記載する。

(2)税務上の繰越欠損金に関する情報(税効果会計基準一部改正第5項)

① 税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報
財務諸表利用者による税負担率の予測に資するように、発生原因別の注記として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、税務上の繰越欠損金に関する数値情報として、繰越期限別に次の数値を記載する。

□税務上の繰越欠損金の額に納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額(発生原因別の注記に記載されている額)
□税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額
□税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額

② 税務上の繰越欠損金に関する定性的な情報
税務上の繰越欠損金に関する数値情報が繰越期限別に開示されても、税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合、財務諸表利用者が当該繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性を評価できないため、当該不確実性の評価に資するように、税務上の繰越欠損金に関する定性的な情報として、税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を記載する。

(3)連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記事項(税効果会
計基準一部改正第4項及び第5項)

税効果会計基準一部改正では、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表における税効果会計に関する注記事項については、評価性引当額の内訳に関する数値情報のみを追加することとしています。

これは、評価性引当額の内訳に関する数値情報については、財務諸表提出会社の個別財務諸表において、従来から税効果会計基準に定められている注記事項及び財務情報以外についての開示等から推測することは困難であり、個別財務諸表において税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等に係る評価性引当額の情報を開示することが適当と考えられるためです。

一方で、税効果会計基準一部改正では、評価性引当額の内訳に関する情報及び税務上の繰越欠損金に関する情報を連結財務諸表における注記事項に追加しており、財務諸表利用者における理解が深まると考えられるため、
連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表において以下の注記事項の記載を要しないこととしています。

□評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合の変動の主な内容(上記(1)②参照)
□税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報(上記(2)①参照)
□税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由(上記(2)②参照)

4.適用時期

本会計基準等の適用時期等について、次のように取り扱うこととされています。

項目 適用時期 適用初年度に関する取扱い
表示の取扱い
(税効果会計基準 一部改正)

平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。

ただし、平成30年3月31日以後最初に終了する連結会計 年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる。

・表示方法の変更として取り扱う
・表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い組替えを行う。
注記事項の取扱い
(税効果会計基準 一部改正)
・表示方法の変更として取り扱う。
・ただし、税効果会計基準一部改正により追加した注記事項については適用初年度の比較情報に記載しないことができる。
会計処理の取扱い
(個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(税効果適用指針第8項(2)))
平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 (税効果適用指針第 8 項(2)を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合)
・会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。
・新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する。
会計処理の取扱い
((分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(回収可能性適用指針第18))
平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 (回収可能性適用指針第18項を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合)
・会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。
・新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する。

5.参考資料

本会計基準等の詳細は以下をご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2018/2018-0216.html

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