企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」等の公表について

1.はじめに

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、平成29年7月20日に、収益認識に関する会計基準及びその適用指針の公開草案(以下、合わせて「本公開草案」)を公表しました。

我が国においては、企業会計原則の損益計算書原則に、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされているものの、収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで開発されていませんでした。

一方、国際会計基準審議会(以下、「IASB」)及び米国財務会計基準審議会(以下、「FASB」)は、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic 606)を公表しており、IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から、Topic 606は平成29年(2017年)12月15日より後に開始する事業年度から適用されます。

これらの状況を踏まえ、ASBJは、平成27年3月に開催された第308回企業会計基準委員会において、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し、その後平成28年2月に、適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するため、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(以下「意見募集文書」という。)を公表しました。ASBJでは、意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ検討を重ね、本公開草案の公表に至ったものです。

なお本公開草案のコメント募集期限は、平成29年10月20日までとされています。

2.本公開草案の概要

本公開草案の概要は以下のとおりです。

開発にあたっての基本的な方針(会計基準案第91項から第94項)

意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ、ASBJでは、収益認識に関する会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、IFRS第15号と整合性を図る便益の1 つである財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、会計基準を定めることとしています。
また、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを追加することとしています。

基本となる原則(会計基準案第13項から第15項)

本公開草案の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益の認識を行うこととされています。

基本となる原則に従って収益を認識するために、次の 5 つのステップを適用します。
ステップ 1:顧客との契約を識別する。
ステップ 2:契約における履行義務を識別する。
ステップ 3:取引価格を算定する。
ステップ 4:契約における履行義務に取引価格を配分する。
ステップ 5:履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。

具体的には以下の通りです。

Step1:契約の識別
次のすべての要件を満たす顧客との契約を識別します。
① 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
② 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
③ 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
④ 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)
⑤ 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと(当該対価を回収する可能性の評価にあたっては、対価の支払期限到来時における顧客が支払う意思と能力を考慮する)

Step2:履行義務の識別
契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①別個の財またはサービス又は②一連の別個の財またはサービスのいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別します。

Step3&4:収益の額の算定
(1)取引価格に基づく収益の額の算定(Step3&4))
 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、取引価格のうち、当該履行義務に配分した額について収益を認識することが提案されています。
(2)取引価格の算定(Step3)
 取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額であり、第三者のために回収する額を含まないものをいうとされています。取引価格を算定する際には、次の①から④のすべての影響を考慮することが提案されています。
①変動対価  ②契約における重要な金融要素 ③現金以外の対価 
④顧客に支払われる対価
(3) 履行義務への取引価格の配分(Step4)
 それぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分は、独立販売価格の比率に基づき、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行うことが提案されています。

Step5:履行義務の充足による収益の認識
企業は約束した財又はサービス(資産)を顧客に移転することによって、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識します。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時、又は獲得するにつれてとされています。

特定の状況又は取引における取扱い(適用指針案第34項から第88項)

本公開草案では、次の(1)から(11)の特定の状況又は取引について適用される指針を定めています。
(1) 財又はサービスに対する保証(ステップ2)
(2) 本人と代理人の区分(ステップ2)
(3) 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ステップ2)
(4) 顧客により行使されない権利(非行使部分)(ステップ5)
(5) 返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払(ステップ5)
(6) ライセンスの供与(ステップ2及び5)
(7) 買戻契約(ステップ5)
(8) 委託販売契約(ステップ5)
(9) 請求済未出荷契約(ステップ5)
(10) 顧客による検収(ステップ5)
(11) 返品権付きの販売(ステップ3)

重要性等に関する代替的な取扱い(適用指針案第91項から第102項)

本公開草案では、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、次の個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めています。

(1) 契約変更(ステップ1)
□重要性が乏しい場合の取扱い
(2) 履行義務の識別(ステップ2)
□顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い
□出荷及び配送活動に関する会計処理の選択
(3) 一定の期間にわたり充足される履行義務(ステップ5)
□期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア
□船舶による運送サービス
(4) 一時点で充足される履行義務(ステップ5)
□出荷基準等の取扱い
(5) 履行義務の充足に係る進捗度(ステップ5)
□契約の初期段階における原価回収基準の取扱い
(6) 履行義務への取引価格の配分(ステップ4)
□重要性が乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用
(7) 契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分(ステップ1、2及び4)
□契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分
□工事契約及び受注制作のソフトウェアの収益認識の単位

また、次の項目については、代替的な取扱いを定めていません(適用指針案第158項及び第159項)。
■変動対価における収益金額の修正(ステップ3)
■契約金額からの金利相当分の区分処理(ステップ3)

なお、本公開草案によると、主に次の現行の日本基準又は日本基準における実務の取扱いが認められないこととなるため注意が必要です。
■顧客に付与するポイントについての引当金処理(ステップ2)
■返品調整引当金の計上(ステップ3)
■割賦販売における割賦基準に基づく収益計上(ステップ5)

開示

□表示(会計基準案第76項及び第85項)
本公開草案では、企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客が対価を支払う場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示することとしていますが、経過措置として、契約資産と債権を区分表示しないことができることを提案しています。

□注記事項(会計基準案第77項)
本公開草案では、顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記することを提案しています。

なお、会計基準を早期適用する段階では、各国の早期適用の事例及び我が国のIFRS第15号の準備状況に関する情報が限定的であり、IFRS第15号の注記事項の有用性とコストの評価を十分に行うことができないため、必要低限の定めを除き、基本的に注記事項は定めないこととし、会計基準が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)までに、注記事項の定めを検討することとしています(会計基準案第133 項)。

3.適用時期等

本公開草案は、平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することを提案しています。

早期適用

また早期適用として、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができることを提案しています。

なお早期適用については、追加的に、平成30年12月31日に終了する連結会計年度及び事業年度から平成31年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることも提案しています。

適用時期の検討にあたっては、国際的な比較可能性の確保及び実務上の対応可能性を踏まえ、次の案も検討しています。
① 平成32年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。
② 平成32年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するが、当該連結会計年度及び事業年度の期首に会計基準を適用することが実務上困難な場合には、当該基準を適用していない旨及び理由を注記することを条件に、平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。

経過措置

本公開草案では、IFRS第15号及びTopic 606を参考として、適用初年度の経過措置を定めることを提案しています。また、IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表で適用している企業(又はその連結子会社)に対しては、IFRS第15号又は Topic606における経過措置に従うことができることを提案しています。

4.参考資料

本公開草案の詳細は、以下をご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2017/2017-0720.html

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