非営利法人委員会研究報告第 31 号「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」の公表について

1.はじめに

平成29年1月25日に日本公認会計士協会(JICPA)より非営利法人委員会研究報告第 31 号「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」が公表されました。

我が国では、急速な高齢化による高齢者人口の急増に伴い、社会保障給付費が急激な増加の一途にあり、社会保障財政の安定化を図ることが急務となっています。社会保障制度の持続可能性を担保するため、様々な形で給付と負担の調整が実施されてきていますが、サービス提供に係るコスト増を抑制する観点からは、医療機関や介護施設を運営するサービス提供主体が、効果的な資源配分と効率的な経営活動を通じて、その生産性を高めることも極めて重要と考えられます。

本研究報告では、このような社会的背景を受け、非営利組織において効果的かつ効率的な経営に導くことのできる組織の基本的な在り方を、持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスと捉え、検討を行っています。

2.非営利組織のガバナンス設計と課題

我が国では、医療及び介護等の社会保障のサービス提供主体として、医療法人、社会福祉法人に代表される民間非営利組織が重要な役割を果たしています。

出資者たる持分権者が存在しない非営利組織においては、資源提供者となる寄付者や補助金・助成金の提供者の権利と立場は、株式会社における株主と決定的に異なります。
非営利組織における重要なステークホルダーとして、受益者、資源提供者、従業員、地域社会、政府等が考えられますが、このような多様なステークホルダーの権利、ニーズ、期待及び懸念がバランスよく配慮され、満たされるための仕組みとして、組織ガバナンスが構築されることが期待されます。

本研究報告ではこれらのステークホルダーのニーズを踏まえ、非営利組織におけるガバナンスの主な目的として、①組織目的の実現、②持続的経営、③コスト・ベネフィット、④コンプライアンスの4項目を提起しています。

また、非営利組織におけるガバナンス運営上の課題を以下のように検討しています。

経営理念及び組織目的
非営利組織においては、利益追求は組織目的として成立しない。広くは、公益性の追求や社会福祉への貢献が目的となるが、あいまいなものとなりやすい。
オーナーシップと監督
持分のない非営利組織においては、組織のオーナーシップが明確ではない。
ステークホルダーとの関係
ステークホルダー(受益者、資源提供者、地域社会等)のニーズ、期待及び懸念を、経営上の意思決定に効果的に反映するための体制及びプロセスが存在しない場合もある。
経営効率に関するインセンティブ
非営利組織においては、経営改善、特にコスト・ベネフィットを高めることについてのインセンティブが働きにくい。
理事会、評議員会、社員総会の運営
理事会、評議員会、社員総会といった経営・監督を担う会議体(機関)の設置が要求されているが、形式的には設置されていても、意思決定や監督機能を実質的に担えていない場合があるとの指摘もある。
監査機能
監査機能を担う役員である監事には、業務・財務の両面からの監査が通常期待されているが、形式的な存在となり、監査機能を実質的に担えていない場合も多い。

3.持続可能な社会保障に寄与する非営利組織ガバナンス

本研究報告では、上記の非営利組織におけるガバナンス運営上の課題の検討及び海外制度の調査等を踏まえ、非営利組織における効果的なガバナンスの在り方を検討し、以下のポイントを提示しています。

経営理念、組織目的、経営目標の明確化
組織目的は、組織運営の基盤となるものであり、これが文書化され、組織メンバーに共有され、理解されることが重要である。さらに、具体的な経営目標に落とし込むことによって、事業戦略・計画の策定につながる。
経営(執行)機能と監督機能
その機関構成と役割分担については多様な形態が考えられるが、経営(執行)と監督の両機能が有効に機能するよう組織体制が構築され、運用されることが重要である。
評議員会・社員総会による監督
ステークホルダーのニーズを代表して参画する者が監督組織の構成員となることが重要である。監督機関が有効に機能する上で、評議員の選任及び構成、役割及び責任の明確化、組織理念及び経営方針の存在、そして運営の透明性が重要と なる。
理事会運営と経営機能の強化
重要な業務執行を決定するとともに理事長を含む理事の職務執行を監視する責任を負う理事会が、有効に機能するよう運営されることが重要である。さらに、経営機能の強化には、PDCA サイクルを有することが求められる。
実効性ある監事監査
監事監査の実効性を高める上で有効と考えられる方策として、①適任者の選任、②客観性・第三者性の確保、③監査時間の確保と適正報酬、④業務規範の確立及び⑤所轄庁・会計監査人との関係と役割及び責任の整理が挙げられる。
情報開示と評価
非営利組織の情報開示制度は強化されつつあるが、情報の質、非財務情報の開示、情報アクセスの問題等の課題も多い。ステークホルダー目線への転換が必要である。

4.参考資料

本研究報告の詳細は、以下をご参照ください。
https://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-13-31-2-20170125.pdf

Print This Post