仮想通貨を巡る制度整備等の状況について

1.はじめに

平成28年11月14日に開催された企業会計基準委員会(ASBJ)の基準諮問会議において、「仮想通貨に係る会計基準の取扱い」について新規テーマの提案が行われています。

新規テーマの提案理由

仮想通貨を利用した取引については、日本国内だけでなくグローバルに拡大しており、現在は比較的小規模の会社が交換業者として活動していますが、銀行グループによる仮想通貨の導入も検討されている状況です。

仮想通貨を巡る法的整備としては、平成28 年6月3日に改正資金決済法が公布され、「仮想通貨」を定義した上で、「仮想通貨交換業者」に対して、登録制の導入、財務諸表監査及び分別管理監査が義務付けられました。改正法は 1 年以内に施行されるため、これに向けて事業者の登録や自主規制団体である事業者協会の認定などに関する準備が進められている状況です。
一方、現在の会計基準においては、仮想通貨の会計処理に関する取扱いは存在していません。

こうした仮想通貨の利用拡大と規制の導入を含めた環境整備に関する動きと足並みを揃え、会計上の取り扱いを明確にすることが必要と考えられています。

2.仮想通貨の定義

仮想通貨とは、オンライン上のみで存在する仮想の通貨です。
改正資金決済法において、資金決済法上の規制を適用すべき対象として、仮想通貨を以下のように定義しています(銀行法等改正法案による資金決済法2条5項)。

①物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
②不特定の者を相手方として①に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

つまり、仮想通貨とは
①モノやサービスの購入の際に決済手段として使用することができ、かつ、②それ自体を法定通貨と交換することもできる③電子情報としての財産的価値 と定義されます。

ただし、上記の定義に該当するものであっても、法定通貨等は「仮想通貨」の定義からは除外されます。
つまり、いわゆる「電子マネー」ついては、電子的なデータであるという点、及び決済に利用できるという点において「仮想通貨」と混同されがちですが、「電子マネー」は特定の発行者が発行した日本円その他の法定通貨の派生物として考えられているため、「仮想通貨」には該当しません。

3.仮想通貨の消費税法上の取扱いについて

消費税法上も、仮想通貨に係る取引について特段の規定は設けられていません。
そのため、消費税法上の取扱いについては不透明な状況にありますが、仮想通貨はすでに事実上、広範囲に通用している電子的なデータであり、何らかの価値を有する「モノ」として、消費税法上も資産として評価できることから、その譲渡は「資産の譲渡等」に該当するとされています。

4.仮想通貨に関する会計上の論点

現在の会計基準においては、仮想通貨の会計処理に関する取扱いは存在していません。
仮想通貨を現行の会計基準に当てはめた場合にどのような取扱いになるのか、現状考えられている論点は以下の通りです。

金融商品か棚卸資産か

◇仮想通貨は法定通貨には該当せず、それ自体が権利を表章するものでもないため、金融商品取引法に定義される有価証券にも該当せず、現行の金融商品会計基準等における金融商品の範囲に含まれると解釈するのは難しいと考えられる。

◇一方で、仮想通貨は需要と供給で価値が変動しており、金や一次産品等の「コモディティ」に概念的には類似するため、棚卸資産の評価に関する会計基準における棚卸資産の範囲に含まれるというのは相対的に解釈の無理が少ない。しかし、仮想通貨それ自体に本源的価値がないという点や、必ずしも投資の成果を獲得することを意図しているわけではないため、棚卸資産と相違する点も多い。

◇仮想通貨は、モノ自体の価値というよりも市場の換金レートで価値が実現することができるものでもあるため、「外貨建ての現金」に準じた会計処理が適合するのではないか。

顧客からの預かり資産の計上時期等

◇顧客からの預かり資産については、所有と占有が一致しているという事実(具体的には、秘密鍵の占有)に基づき仮想通貨交換業者は資産を計上し、その返還義務を負債として計上すべきではないか。認識時点としては、顧客と仮想通貨交換業者の契約条項に従うべきではないか。

◇預かり仮想通貨を資産及び負債として計上し、時価評価する会計処理を採用する場合には負債の時価評価という観点から、既存の会計基準との整合性が論点になる。

評価及び換算方法

◇評価及び換算方法については、金融商品会計基準における時価のある金融商品又は外貨建取引会計等処理基準における期末日換算レートと同様に取り扱うことが考えられる。

◇複数の仮想通貨交換業者で異なる価格が観測されるため、通貨ペアごとに最も活発な市場を使う必要があるのではないか。

表示および開示

◇どのような会計処理を採用したとしても、財務諸表上は「仮想通貨」として独立した科目をもって表示すべき。

◇採用した期末日換算レート又は時価の参照元について、何らかの情報開示が必要ではないか。

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