監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」等の改正について

1.はじめに

平成27年5月29日に、監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」(以下、「監基報260」)の改正が公表されました。
併せて、当該改正に関連する品質管理基準委員会報告書及び監査基準委員会報告書の一部改正も公表されています。

2.会社法の改正への対応

改正会社法において、株式会社の機関設計として「監査等委員会設置会社」(会社法2条11号の2)が新設されたことを受け、監査人のコミュニケーションの対象である「監査役等」として、従来の監査役若しくは監査役会、監査委員会に加え、監査等委員会が追加されています(監基報260第9項)。

また、コーポレートガバナンス・コードにおいて、独立社外取締役の役割・責務として経営の監督を求めていることも反映され、監査役等に限らず、必要に応じて社外取締役その他の非業務執行取締役ともコミュニケーションを行うことが有用であると言及されています(監基報260A2項)。

3.監査役等とコミュニケーションを行うことが要求される事項の拡充

監査役等とコミュニケーションを行うことが要求される事項として、以下の内容が追加・拡充されています。
改正の内容を踏まえた監査役とコミュニケーションすべき内容の一覧は下記表のとおりです。

特別な検討を必要とするリスク

「(2)計画した監査の範囲とその実施時期」のコミュニケーションの内容として、監査人により識別された特別な検討を必要とするリスクが含まれる旨が明記されました(監基報260第13項)。

会計上の見積り

「(3)監査上の重要な発見事項」のコミュニケーションの内容として、会計実務の重要な質的側面についてのコミュニケーションにおける、会計上の見積りに関するコミュニケーション事項の例示が拡充されています(監基報260付録2)。

独立性に関する指針

平成26年4月に改正された「独立性に関する指針」に対応するため、監査人の独立性に関して監査役等とコミュニケーションを行わなければならない旨が追加されました(監基報260第15項)。
また適用指針において、独立性に関する指針において求められているコミュニケーションの具体的な例示も追加されています(監基報260 A21-2)。

監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況

監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況の概要を監査役等に書面で伝達しなければならない旨が追加されました(監基報告260第15-2項)。
これには、日本公認会計士協会の品質管理レビュー及び公認会計士・監査審査会の検査結果が含まれるとされています。
対象となる監査・・・公認会計士法の大会社等の監査、会計監査人設置会社の監査、信用金庫、信用協同組合及び労働金庫の監査

なお、監査役等とのコミュニケーションの全容は以下の通りです。

区分 内容 要求事項 適用指針
コミュニケーションが求められている事項 財務諸表監査に関連する監査人の責任 第12項

計画した監査の範囲とその実施時期

・不正又は誤謬による、重要な虚偽表示に係る特別な検討を必要とするリスク
・特別な検討を必要とするリスク以外に識別している重要な虚偽表示リスクが高い領域
・監査に関連する内部統制
・監査に適用される重要性の概念
・特定分野での技能又は知識の内容及び範囲(専門家の業務の利用を含む)
・監査計画上の事項で、監査役等と協議することが適切なその他の事項

第13項 A12項
A13項

監査上の重要な発見事項

・会計方針、会計上の見積り及び財務諸表の開示を含む、企業の会計実務の質的側面のうち重要なもの
・監査期間中に直面した困難な状況
・監査の過程で発見された重要な事項
・経営者確認書の草案
・財務報告プロセスに対する監査役等による監視にとって重要と判断したその他の事項

第14項 A15項
A16項
A17項
A18項
A19項
付録2

監査人の独立性

・独立性に関する指針(以下の場合)
①合併や企業買収時にその効力発生日までに利害関係を解消できない場合
②監査人の独立性に関する違反が生じた場合
③特定の大会社等に対する報酬依存度が一定の割合を占める場合

※1 上場企業の場合、以下について監査役等とコミュニケーションを行わなければならない
・職業倫理に関する規定を遵守した旨
・独立性に影響を与えると合理的に考えられる事項
・認識した独立性に対する阻害要因を除去する又は許容可能な水準まで軽減するために講じられたセーフガード

第15項 A21項
A21-2項

コミュニケーション方法

・想定されるコミュニケーションの手段、実施時期及び内容

第16項
書面でのコミュニケーションが要請されている事項 監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況の概況
(監査事務所の品質管理のシステムの外部のレビュー又は検査の結果が含まれる。)

【対象となる監査】
・公認会計士法上の大会社等の監査
・会計監査人設置会社の監査
・信用金庫、信用協同組合及び労働金庫の監査

第15-2項 A22-2項
A22-3項
・監査上の重要な発見事項
・監査人の独立性(※1の場合)
第17項
第18項
その他

以下の場合には監査役等に限らず、社外取締役その他の非業務執行取締役ともコミュニケーションを行うことが有用なことがあるとされている。

・経営者の関与が疑われる不正を発見した場合、又は不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合
・経営者との連絡・調整や監査役会との連携に係る体制整備を図るため、独立社外取締役の互選により「筆頭独立社外取締役」が決定されている場合
・取締役会議長と経営者とを分離している場合

A2項

※表中太字は改正部分

4.適用時期

当該改正は平成27年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用されます。

また、新設された、監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況に関する概要の伝達(監基報260第15-2項)については、平成27年5月29日以後行われる監査役等とのコミュニケーションから適用するものとされています。
ただし、公認会計士協会の品質管理レビューについては、平成27年5月29日までに受領したレビュー報告書に記載されている限定事項及び改善勧告事項で、平成27年5月29日時点で改善状況の確認が未了の事項について伝達対象とされています。

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